まだ食べられるのに、何らかの理由で捨てられてしまう「食品ロス」。コロナ禍における飲食店の営業自粛と関連して報じられることも多く、農家や製造業者の苦労・経済的ダメージに心を痛めた方も多いのではないでしょうか。
食品ロスは日本だけでなく世界中で起きており、もったいないだけでは済まないあらゆる弊害も起きているのが現状です。そのため、SDGs目標12にも掲げられている「つくる責任つかう責任」という考えのもとで、国際的に解決すべき大きな課題として捉えられています。
本記事ではより多くの方に関心を持っていただけるよう、食品ロスの現状や原因、問題解消への取り組みなどをお伝えしていきたいと思います。
食品ロスとは
国連食糧農業機関(FAO)は食品ロスを「人の消費に当てることのできる食料が、サプライチェーンの様々な段階で失われ量が減少すること」と定義しています。
ただ何をもって食品ロスとするかは、国によって判断基準が異なるのも事実です。また生産から流通までの間で失われる食品を「フードロス」、小売から消費までの間で失われる食品を「食品ロス」と、呼び方を変えて区別しているところもあります。
日本では食品ロスを「事業系」と「家庭系」の2つに分けており、この2つを合わせた年間の食品ロス量が612万トン、大型トラックに換算すると1日あたりの廃棄量は約1700台分です。
これは人口ひとりあたりの1日の廃棄量が約132gの計算となり、お茶碗約1杯分のお米を捨てているのとほぼ同じ量になります。
事業系食品ロス
日本の年間の食品ロス約612万トンのうち、約328万トンは食品メーカー・スーパー・コンビニ・レストランなどの事業者から事業ごみとして出されています。
事業者から食品ゴミが出る理由は以下が挙げられます。
- 製造工程でのロス
- 包装材の印刷ミス、規格外品、破損品等流通できないもの
- 商習慣による期限前の返品や売れ残り
- 食べ残しや仕込みロス
家庭系食品ロス
日本の年間の食品ゴミ(約612万)から事業者が出しているもの(約328万トン)を差し引いた、残りの半分弱を占める284万トンは私たちの家庭から出ています。
家庭から食品ロスが出る主な理由として、食べ残しや、食べられる部分の過剰な除去、賞味・消費期限切れによる廃棄などが挙げられます。
なお、農林水産省の平成21年の世論調査によると、食品を使用せずに廃棄した理由は以下であることがわかっています。
- 食品の鮮度低下、腐敗及びカビの発生
- 食品の消費・賞味期限が過ぎたため
- 色やにおいなどで食品の安全性に不安を感じたため
- 食品が中途半端に余ったため
食品ロスの現状と問題点
ここでは、世界規模で見た際の食品ロスにおける問題点をいくつか解説していきたいと思います。
世界では生産されている食品の3分の1、約13億トンが食品ロスとして廃棄されていてます。
一方で、世界中で食糧不足に苦しむ人々の数は8億5000万人、世界の9人に1人が飢餓状態にあるのが現状です。
また国連世界食糧計画(WFP *1)が約80か国、およそ1億人の人々に行っている食料援助が毎年430万トンなのに対し、日本では1年間にその1.5倍が食品ロスとなっています。
WFPは、飢餓と食品ロスに関して知っておくべき5つの事実として下記を挙げています。
その1:世界の食料生産量のうち3分の1が廃棄されている。
その2:食べられずに捨てられた食料は世界の20億人分に及ぶ。
その3:世界中で食料廃棄によって発生する二酸化炭素の量は、アメリカと中国に次ぐ3番目の排気量となる。
その4:先進国の食品ロスの量は、サブサハラアフリカ地域の食料生産量に及ぶ。
その5:開発途上国の食品ロスの4割は、収穫後と加工の段階で発生する。一方で、先進国では食品ロスの4割以上が小売と消費の段階で発生
国連WFPブログ 飢餓と食品ロスに関する、5つの事実
このことから、途上国では衛生や技術的な問題で「つくっても食べられない」、先進国では逆に「つくり過ぎ」「食べ残し」で食品が捨てられるという不均衡な構図が存在していることがわかります。
この先も世界の人口は増加し続けていくことが予想されており、2050年には現在の1.7倍の食料が必要だとも言われています。そのため、限りある資源や食料の無駄を減らしながら食料の供給を増やしていく対策がますます必要になってくると言えます。
*1:飢餓の無い世界を目指し、紛争や自然災害などの緊急事態時に、必要とされる場所に食料支援を届けている国連の人道支援機関
環境や経済への影響
食品生産の過程では、土地や水、肥料、熱、電気などのエネルギーなど、さまざまな資源が利用されています。つまり、食べられるものを捨てるということは、言い換えればそれらの限りある資源を無駄にしているということにもなります。
製造・輸送・加工・流通・消費・廃棄のそれぞれの段階で二酸化炭素(CO2)が排出されており、その占める割合は世界全体の8〜10%。さらに、それらの過程で莫大な金銭的・時間的コストもかかります。
食物の廃棄量が増えることで温室効果ガスの排出増加やコストの無駄づかいに繋がり、結果的に地球温暖化・気候変動を助長しながら経済も圧迫してしまうことにもなるのです。
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食品ロス問題解消への取り組み事例
食品ロスを効果的に減らすためには、生産者から消費者へと繋がる全ての過程において、具体的な解決策を示し実行していく必要があります。
まず、途上国では収穫・保存を適切に行い、生産物が確実に食品にするための技術の向上が求められています。一方、先進国ではつくられた食品を無駄なく消費するために、流通・小売・消費者の意識改革が重要となります。
それらを踏まえ、ここでは海外や日本で行われている具体的な食品ロス解消への取り組みを紹介していきます。
世界の取り組み
SDGs(持続可能な開発目標)では、ターゲット12.3において「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させる、収穫後損失等の生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」ことが目標に掲げられています。
食品ロスは問題の規模が大きく、また他の様々な問題とも複雑に絡み合っているため、国際組織や各国政府、グローバル企業などが連携しながら取り組みを進めています。
フランス
フランスは2016年、世界で一番最初に食品廃棄禁止を法律で制定。食料品店に売れ残った食品の廃棄を禁止し、慈善団体やフードバンクへの寄付を義務付けるなど、国家レベルでの食品ロス減少対策が進められています。
また法律では小売業者が非営利団体へ食品を寄付することで、税控除を受けられることも定められています。業者への食品ゴミを出さない動機付けができる上に、経済的に困窮している人々への食糧支援の増加も見込めるのが大きなメリットです。
なお最新の調査によると、フランスの消費者は1人あたり食品ロス量は年間67.2 kg。米国の95.1 kg、ベルギーの87.1 kg、カナダの78.2kgと比較してもかなり少ないことがわかります。
イギリス
イギリスは国家主導のフランスとは異なり、民間団体・業界団体などを中心とした食品ロス削減の対策を行なっています。
中でもWRAP( 1*)という組織がその中核的役割を担っており、2005年に「コートールド公約」という自主協定の運営を開始。協定に参加登録した小売業や、製造業、サプライヤーなどが、掲げられた目標に沿った取組みを実施しています。
そのおかげもあり、イギリスはSDGsの2020年達成レポートで、目標12.3「2030年までに食品廃棄物を半減させる」を半分以上達成(*2)した最初の国となるなど、目覚ましい成果をあげています。
*1:WRAP
日本の取り組み
日本でも食品ロスにおけるSDGs目標達成に向けて様々な取り組みが行われています。
食品ロス削減推進法
2019年10月「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称:食品ロス削減推進法)が施行され、2021年3月にその基本的な方針が閣議決定されています。
推進法では、関係省庁が相互に連携・協力し、「食品ロス」問題に国を挙げて取り組むことを定めています。
基本方針に盛り込まれている具体例の一部は以下の通りです。
- 1/3ルール(小売店舗へ納品する期限を賞味期間の3分の1、販売する期限を3分の2とする慣例)の見直し
- 小売店での「消費期間(食べても安全な期限)」「賞味期間(美味しく食べられる期限)」「手前取り」などの啓蒙活動
- 余剰食品のフードバンク寄付
- 外食産業での「おいしい”食べきり”運動」と消費者の自己責任による持ち帰り
アプリを使った各種サービス
IT技術を最大限に活用した食品ロスを減らすためのサービスも多数開発されています。実際にリリースされているサービスを以下に事例としてご紹介します。
- No Food Loss
位置情報を利用し、廃棄予定となった食品の割引クーポンを獲得できるサービス。コンビニと提携しているので利用範囲が広いのが特徴。 - タベッタ
飲食店での見込み仕入れや予約キャンセルでの食品ロスを無くすため、直前予約で割引が受けられるサービス。 - tabekifu
同じく飲食店でのキャンセルや仕込み過ぎの食事・食品を割引価格で購入でき、支払金額の一部を寄付することも可能。
最後に
「食品ロス」には環境・社会・経済といったさまざまな問題が絡んでいますが、私たち一人ひとりの意識・行動を変えていくこともとても重要なことです。
廃棄されてしまう食品に対して「もったいない」という気持ちを持つこと。
多くの人たちの労働、時間、資源から自分の手元に届いた食品を大事に食べること。
そんな当たり前のようで忘れがちなことを一人でも多くの人たちに思い出してもらえるよう、WEELSでは今後も食品ロス問題に関する発信をしていきたいと思います。
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海外在住、潜って踊れるママさんライター。趣味は雑学収集で、得た知識をライティングに反映するWin-Winな循環が理想。