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なぜ日本の長時間労働はなくならない?現状や原因、改善策も|SDGs目標8「働きがいも経済成長も」

ストレスによるうつ病を引き起こしたり、最悪の場合には過労死を招く可能性もある長時間労働。広告大手代理店「電通」に勤めていた高橋まつりさんが、過労を苦に当時24歳という若さで自ら命を絶った痛ましい事件が記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

特に、日本は長時間労働大国として国内外のメディアによく取り上げられることも多く、政府の打ち出す働き方改革の中でも「長時間労働の解消」が課題として挙げられていますが、まだまだ問題解決への道のりは長いというのが現状です。

そもそもなぜ日本の長時間労働はなくならないのか。本記事ではこの問題の現状や原因、改善策などをお伝えしていきたいと思います。

長時間労働の基準とは

長時間労働の基準とは

長時間労働は、特に何時間を超える労働からといった定義はありません。ただし、法律で定められている労働時間の1日8時間・週40時間以内を大きく超えた場合は長時間労働に当てはまると言えるでしょう。

残業や休日出勤などの「時間外労働」の基準は、労働基準法で規定されています。休日の労働は含めずに上限は月45時間・年間360時間で、臨時の特別な事情がなければ越えてはいけません。

もし定められた時間数を越えて労働をさせる場合は、「特別条項付き36協定(通称:サブロク協定)」の締結と、所轄労働基準監督署⻑への届出が必要です。

なお、36協定では下記の項目が定められています。

  • 残業の上限時間を延長することができるのは年に6回まで。残りの6回までは月45時間に収める。
  • この特別条項が受け入れられるのは「臨時の特別な事情」のときのみ。届出するときには時間外労働をする具体的な理由を記載が必要。
  • 「特別条項付き36協定」を締結していても時間外労働時間に規制がある。
    年間で720時間、休日労働を含めて1カ月で100 時間、休日労働を含めて、2ヶ月〜6ヶ月平均で80時間以内にする。(この時間を超えてしまうと脳や心臓疾患のリスクがかなり上昇する。)

36協定は政府の推し進める働き方改革を受けて、罰則付きの時間外労働時間の上限規制が設けられました。もし守れなかった場合は、6か⽉以下の懲役、または30万円以下の罰⾦が科せられます。なお、このルールは大企業には2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されています。

長時間労働によるリスク

長時間労働によるリスク

長時間労働は労働者の心身へのストレスが大きいばかりか、最悪の場合は過労死や自殺に繋がる可能性もあります。また働く側のリスクだけでなく、従業員を雇用している企業側にも大きなダメージがあります。

もし労働者が過労死に至ってしまった場合、企業は労働者を失い、さらには多額の損害賠償を請求をされるケースもあります。企業への信頼性・評価・イメージの低下により、取引先を失ったり、株価の大幅な下落なども考えられるでしょう。

今はインターネット上での会社の口コミ評価が簡単に広まってしまうため、新しい人材確保も困難になります。また、行政処分を繰り返しても改善がみられない場合、事業許可を取り消される場合もあるでしょう。

最悪のケースに至る前でも長時間労働で身体が疲れ、集中力が低下することで生産性・パフォーマンスが下がることも考慮すべき点です。慢性的な疲労・睡眠不足が解消されないことで、仕事へのモチベーションが上がらず、結果的に離職者の増加に繋がりかねません。

このように見ていくと、いわゆる「ブラック企業」は中長期的に見たときに、働く側・企業側の双方にもよいことは全くないと言えるでしょう。

世界と比較した日本の労働時間

労働時間の国別ランキングでは見えない「隠れた労働時間」

労働時間の国別ランキングでは見えない「隠れた労働時間」

経済協力開発機構(OECD)が発表した、2019年の世界の労働時間の国別ランキングは以下の通り。

1位:メキシコ
2位:コスタリカ
3位:韓国



22位:日本

OECD参加国の1年間の平均労働時間では、日本は世界平均1,726時間よりも短い1,644時間となっています。

これを見て意外に思われた人もいらっしゃるのではないでしょうか?確かに出ている数字だけを見ると、日本は世界と比較するとさほど労働時間は長くないように思えるでしょう。

しかし、ドイツの1,386時間と日本を比べると258時間の差があり、1日の労働時間を8時間と考えると、年間で32営業日ぶんも多く働いている時間になります。

さらに、このデータには日本特有のサービス残業は含まれてはおらず、一概に世界平均より短い時間とはいえません。定時にタイムカードを強制的に切らされ、その後に時間外労働にカウントされていない労働が横行しているという事実も指摘されています。

また、この平均労働時間は、アルバイト・パートの短時間労働も含まれた平均値である点も見逃してはいけません。

つまり、世界の労働時間の国別ランキングでは見えてこない「隠れた労働時間」の存在が考えられるため、一概に日本の労働時間が他の国と比較して短いと断定するのは難しいと言えます。

有給休暇の取得率の低さ

有給休暇の取得率の低さ

有給休暇の取得率で見ると、2015〜2018年の取得率は19カ国中、日本は最下位でした。

2019年4月からは年に5日の有給休暇を取ることが義務付けられたことで、56.3%と過去最高の結果に。しかし、世界基準で見るとまだまだ少なく、2020年までに政府の目標では取得率70%でしたが、45%と程遠い結果でした。

2020年は新型コロナウィルスの影響があり、大手総合旅行会社のエクスペディアは「有給休暇の国際比較調査」で、世界的に有給休暇の取得日数が少なかったと発表しています。

有給休暇を取らない理由では、世界では「新型コロナウィルスの影響でどこへも旅行できない」が1番多かった理由。一方、日本で1番多かった理由が「緊急時のために取っておく」、2番目が「人手不足など仕事の都合上難しい」と、2019年の調査と同様の結果でした。

また同社の2018年の調査結果で、日本は「有給休暇を取るのに罪悪感を感じる」という人数も最多となっています。

これらのことから、「どんな状況下でも一生懸命に働く」「休むのはいけないこと」だと考えがちな、日本人の伝統的な仕事への捉え方を象徴していることもわかります。

参照:世界の労働時間 国別ランキング・推移(OECD)

エクスペディア 有給休暇の国際比較調査

日本の長時間労働がなくならない理由

日本の長時間労働の理由は、以下の3種類に大きく分類することができます。

  • 管理職の意識・マネジメント不足
  • 人手不足・業務過多
  • 従業員の意識・取り組み不足

管理職の意識・マネジメント不足

管理職の意識・マネジメント不足

管理職やリーダー職に就く人は、部下の業務の進捗状況や業績だけではなく、仕事量の管理も行う必要があります。残業や休日出勤の多さに気がつかず、部下も声を上げることができない場合、事態がどんどん深刻になる可能性があります。

また気づいているのに対策をしないのも、マネジメント不足の1つ。残業が前提の仕事の指示・計画性のない指示・長時間労働の労働者を高く評価するなど、上司の意識の低さや、長時間労働が会社の「あたり前」の考え方になっていることが長時間労働の一番の原因だとも言われています。

人手不足・業務過多

人手不足・業務過多

勤務時間内に終わらない業務過多や人手不足は、直接的な長時間労働の原因です。1人あたりの業務量が多い状態が続くと、労働者の心身の疲弊や休職・離職につながり労働生産性は下がります。また、さらなる人手不足になることも考えられます。

企業側の理由として、労働人口の減少や賃金の上昇で人を多く雇うことができず、特に製造業や飲食業といった特定の業種において業務に対して適切な人員を揃えられないという状況も見られます。

これはマネジメントをする管理職の人にもしわ寄せが行き、上司が多忙のために部下の労働時間の管理まで手が回らないという事態も。結果的にチーム内の長時間労働が常態化してしまい、人手不足・業務過多の負のループから抜け出せないケースが起きています。

従業員の意識・取り組み不足

従業員の意識・取り組み不足

労働者自身が自主的に残業するケースもあります。業績や成績に対するこだわりや、自身に与えられた業務をやり遂げたいなど、仕事に対する想い・責任感の強さが労働時間にも反映されます。また、たくさん働くことが美徳という考えや、残業代の支給が目的といったことも要因として挙げられます。

さらに、会社が定時で帰りにくい雰囲気をつくり出しているのも不要な残業のもとです。日本には、「上司が残業していると部下が帰れない」「結果が残せていなければ残業して努力すべき」のような社風の企業がまだ多く存在しているのが現状です。

他にも、ムダに集まる定例会議・朝礼・報告だけの夕礼なども影響しています。本来は必要のないミーティングのための資料作成は、労働者の時間を奪い、疲弊を生み出す元凶となりうる例の1つ。このような意識付けを従業員に対して積極的に行うことも、企業にとって重要な役割だと言えます。

長時間労働の改善策

厚生労働省が「長時間労働削減推進本部」を設置して長時間労働への対策に取り組んでいますが、各企業でも行える改善策は様々あります。

勤務時間・タスクを適正に管理

勤務時間・タスクを適正に管理

長時間勤務の原因を知るためにも、勤務時間とタスクの可視化を行い、誰が・いつ・どのくらいの時間をかけて・何の業務をしているかを把握することが重要です。

そうすることで、例えば「上司の承認を待つ時間がある」「数分で終わる作業に1時間かけている」など、削減できる/すべきムダな部分も見えてきます。

また、コロナ禍で増えた在宅テレワークにおいては、パソコンの使用時間を記録して勤怠管理システムと連携することで、在宅勤務に潜む見えない労働時間の実態を把握できるようになります。

このようにあらゆることを可視化しながら適正に管理し、長時間労働の改善に務める努力を積極的に行うことが企業側に求められています。

ムダな業務を省く

ムダな業務を省く

業務を見直して効率化を図ることで、業務がこれまでよりも円滑に進む場合もあります。

例えば「出力の必要がない資料はデータで送る」「打ち合わせは必要最小限の人数でする」「打ち合わせ前に資料をメールなどで共有する」など。普段の業務も工夫次第では、業務の時間短縮や経費削減にも繋がります。

企業によっては、慣習的に行われている作業が長年変わらず残っています。それらを行うのにどれくらいの時間がかかっているかや、本当に必要な作業なのかを見直すことで、ムダな労働時間の短縮に期待できます。

管理職の意識改革

管理職の意識改革

管理職の意識を変えることも、長時間労働を改善する上で必要となってきます。

  • 上司が率先して定時で帰る
  • 部下の適性や能力を考えた業務の振り分けを行う
  • 定期的な面談を行い、労働時間や業務量についてのヒアリングを行う

などといった行動がリーダーに求められてきます。

また、そのような意識付けを管理職に行い、

「部下の適性をどのように判断するか」
「コミュニケーションの取り方」
「時間外労働による弊害」

などの重要性を理解・認識してもらうための教育も重要だと言えます。

評価制度の内容の見直し

評価制度の内容の見直し

仕事が終わるまで何時間でも残業をする人が評価される時代がありましたが、今は少しでも時間をかけずに生産性の高い仕事ができる人が評価される時代へと変わってきています。その点で言うと、働いた時間ベースでの給与という考え方も変えていく必要が出てくるでしょう。

もちろん全ての企業が完全成果報酬型を導入するというのは極論ですが、「時間に対しどのくらいの成果が残せたか」といった生産性の面をより重視して評価していくことで、従業員の労働時間への意識を変えることができるのではないでしょうか。

コミュニケーションの活性化

コミュニケーションの活性化

チーム内で「業務を時間内に終わらせる」という共通の士気があるのとないので、実際の労働時間にも大きく現れるでしょう。そのためにも、従業員同士が積極的にお互いに進捗状況を報告・把握し合い、自分のスピードや残りのタスク数などを意識しながら業務に取り組める環境はとても大切です。

そういった点で言えば、株式会社ワーク・ライフバランスが発案した「カエル会議」は注目すべき取り組みです。

カエル会議は、

  • 仕事を振りカエル
  • 仕事のやり方をカエル
  • 早くカエル
  • 人生をカエル

などの意味が込められており、メンバー全員でなりたい理想に対して今、どうすれば近づけるかを徹底的に議論を重ねていくもの。それをより深掘りして具体化していくことで、労働時間も含めた改善策を全員で共有し、チーム全体が意識的に仕事に取り組むというのが目的です。

参照:株式会社ワークライフ・ライフバランス

最後に

「働き方改革」や「長時間労働削減推進本部」で国が対策しているように、2020年1月からSDGs達成のための「行動の10年(Decade of Action)」が始まりました。そして2020年4月からは、非正規雇用の労働者に対しての待遇に関する説明をする義務が定められています。(中小企業は2021年4月から。)

SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」でも掲げられている「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」が実現し、長時間労働によって苦しんでいる人々が少しでも減ることを願います。

そのためにも、企業と従業員がお互いに歩み寄り、それぞれの状況を理解しながら慣習や意識を変えながら、「人生にとって仕事とは何か」を再度見つめ直していくことが大切なのではないでしょうか。

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