コロナウイルス流行により人的移動が減少し、苦しい状況が続く観光業。そんな中、各地方では様々なアイディアが生まれ、今できる最大限の取り組みの中で地域のPRを続けている人々がいます。
岡山県赤磐市の地域おこし協力隊として活動する戸田 洋美さんもその1人。動き回れない状況の中、地元産の未利用果物からつくる除菌ウェットティッシュで、地域のPR活動に力を入れています。
今回は、そんな戸田さんのプロジェクトについてのインタビュー記事。地域おこし協力隊になった理由から、除菌ウェットティッシュをつくることになったきっかけ、開発で苦労したことまで、たっぷりお話を伺うことができました。
「旬のフルーツが好き!」の思いから地域おこし協力隊へ転身・岡山へ移住
私は広島県出身で、学生時代と最初の就職までを広島で過ごしました。その後は勤務先のIT系企業の支店のある大阪で10年以上働いていたのですが、この先のことを考えて、好きなことを仕事にしたいと思うようになりました。
自分が何に興味を持っているのかを深く考えたときに、暮らしに関わること、その中でも「食べること」が好きだと実感しました。四季がはっきりしている日本ならではの「季節の食べ物」、さらに突き詰めると「旬の果物」に一番興味がある。身近でフルーツが特産・名産になっている場所はどこかと考えたときに転身の候補地にあがったのが岡山でした。
地域おこし協力隊員は20・30代が多いかと思いますが、私は40代。何かを新しく始めるといっても、自分が知っているところでチャレンジしたかったんです。その点でも岡山は広島の隣の県、風土も分かっていて、近隣の広島と四国に加えて関西圏にもアクセスしやすいので、ビジネスをするのに可能性が広げられる楽しそうな場所だというイメージもありました。そこで岡山で協力隊の仕事は無いかと探したところ、赤磐市の募集が出ていたので応募しました。
赤磐には2020年8月に移住したので、そろそろ1年です。住む方たちが寛容ですぐに受け入れてもらうことができ、またご協力をお願いしたときに積極的に人を紹介してくださる、という風土に助けられています。
今住んでいるところには産直市場があり、近隣でつくられた朝採りの農産物が安く手に入ります。減農薬でつくられた、時には生産者の名前も表記された農産物です。大都市のスーパーではビニールハウスでつくられた野菜が旬を問わず売られていますが、ここでは「ちょうど出始めたよ」とか「いまの時期が美味しいよ」というのを市場の人に教えてもらえます。旬の食材を自分で料理することが楽しく、自然と外食が減りました。
市内にはバスや電車もありますが、交通移動手段として車があったほうが便利です。カフェテリアがある街のエリアと滝がゴウゴウと流れ落ちる自然のエリアのどちらへのアクセスもよく、バランスが取れていて暮らしやすい場所です。
人が動けないなら物でPR。赤磐産除菌ウェットティッシュをつくることになったきっかけ
地域おこし協力隊の募集形態には、活動内容が明確に決められているミッション型と、活動内容を定めないフリーミッション型、そして隊員提案型などがあるのですが、赤磐市の協力隊募集はミッション型。赤磐市観光協会の運営が私の隊員活動の柱です。
これまでの観光PRは、モモやブドウが旬な時期に関西や関東に販売に行ったり、イベントを開催したりというのが手段だったのですが、コロナ禍で人的移動が制限されて従来の観光PR活動ができなくなりました。私が来てから予定されていたイベントもほぼ全部中止になっています。ホームページを拡充したり、SNSで発信したりとできることはしていますが、本当に難しい状況です。
ただ、農産物はコロナ禍に関係なくつくられますし、農家さん達もコストと手間暇をかけています。それを無駄にしないためにも赤磐をどうPRしていくか、観光協会としてできることは何かと頭を悩ませました。
もともと未利用資源やアップサイクル(※)に関心があり、未利用資源で酵母菌がつくれないか、剪定したブドウの枝を使ってチップができないかなど、友人と色々なアイデアを交換していました。私がコロナ禍での観光PRを模索しているのを知ったその友人に、未利用資源からバイオエタノールをつくる会社があるということを紹介してもらったことが、今回のプロジェクトの始まりです。
※単なるリサイクルでなく価値を付加した再循環
赤磐産の未利用資源の果物を利用した商品を作ることができれば、人が動けない状況下でも物が動いて赤磐をPRしてくれる。除菌ウェットティッシュであればコロナ対策の時勢に合っている商品だし、さらに未利用資源の活用ということでサステナブル。3本柱が揃った、自分たちのやりたいことがギュっと詰まっているプロジェクトに可能性を感じました。
ただ、物をつくるからには売らなければなりません。つくるならまず売り先を開拓しなければと考え、繋がりのあった中国銀行の方に話をしたところ、銀行のノベルティとしてこの赤磐産ブドウの除菌ウェットティッシュの採用を検討してくださるとのこと。中国銀行さん側でも、私たちが依頼をしたバイオエタノールをつくる会社であるファーメンステーションさんとお付き合いがあるということで、今回は三者でやってみようということになりました。
結果、中国銀行さんの全国支店とパートナーシップのある関係金融機関(トマト銀行・日本政策金融公庫岡山支店・岡山県信用保証協会)に、この除菌ウェットティッシュをお客様向けのノベルティとして採用していただくことになりました。
また、除菌ウェットティッシュは岡山の企業向けにノベルティとして発信しているほか、クラウドファンディングの返礼品として利用しますが、小売ができないかも検討しています。
まずは地域から発信したいという想いがあるので、岡山県内の企業様や地元のお店からお声がけさせていただいています。大きな目標ですが、岡山のアンテナショップや空港・JRの駅など、人の往来のあるところでも手に取っていただき、より多くの方に「こういう商品があるんだ」「買うならこっちを選ぼう」という、考え方を変えるきっかけをつくれたら嬉しいです。
ファーメンステーションが中国銀行等の地域事業者と未利用資源再生・循環パートナーシップ:岡山県赤磐産の規格外ぶどうから作る発酵アルコールを配合し「岡山・赤磐産ぶどうのウエットティッシュ」を商品化
開発会社と二人三脚で製品化を目指す
商品の開発は前述した東京のファーメンステーションさんにお願いしました。
リンゴ、バナナ、お米などを発酵させたバイオエタノールをすでに製品化されていますが、ブドウは初めてとのことで、本当に発酵できるのか、開発段階から協力をお願いしました。
どんなブドウがいいのか?
滴果(形を整えるために一部の果実を房から落とすこと)したブドウは使えるのか?
ワインの搾りかすは使えるのか?
発酵するには糖度が必要なので、滴果したブドウは不可。ワインの搾りかすの中には発酵成分は無いのでこれも不可、など、一緒に試行錯誤していきました。
プロジェクトが立ち上がったのはブドウが終わる時期。開発に3か月かかると逆算したときに来年のブドウを待ってはいられなかったのですが、幸い標高が高く平地よりも気温が低い山の中のブドウが残っていたので、その品種で開発をすることにしました。
ブドウ20kgからなら除菌シートが3万個くらいできるとのことで、コロナ禍で需要も想定されるウェットティッシュを商品にすることに決め、開発を依頼しました。
香りをつけるかつけないかという話にもなりましたが、除菌ウェットティッシュを利用するのに想定されるシーンは食事の前に手を拭くとき。香りが無い方がよいだろうし、香りに敏感な人もいるだろうということで無香料にするなど、細かいところまで詰めながら二人三脚で開発・製品化を進めていきました。
対面でのコミュニケーションができない難しさ
コロナ禍で関係者のどなたとも直接お会いできずにスタートしたプロジェクトなので、私の人となりやプロジェクトの目的などをオンラインで伝えるのが大変でした。やりとりはZoomやメール、メッセージ、ハンコなどが必要な書面は郵送にするなど、臨機応変に対応しました。
意志の疎通が難しいときもありましたが、製造担当の方が写真つきで進捗状況を報告して下さったおかげで安心してお任せできました。状況が落ち着いたらファーメンステーションさんの東京本社や岩手のラボに伺いたいと思っています。
クラウドファンディングで広げるサーキュラーエコノミーの輪
クラウドファンディングを立ち上げたのは、資金調達以外に、認知と仲間づくりのためです。未利用資源の活用やサーキュラー・エコノミー(※)に興味はあるけれどどうしたらよいかわからない人たちの層の存在があることは知っていたので、その層に訴求できればと思いました。
※従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動。
クラウドファンディングはリリースの方法次第ではPR活動にもなります。プロジェクトの目的の一つに「地域に根付いたことをする」ことを掲げていたので、READYFORがサポートする岡山の地域密着型クラウドファンディング「晴れ!フレ!岡山」を通じてリリースすることにしました。
もともとサステナブルに興味のある層もありますが、未利用資源やアップサイクルって何のこと?という方もまだまだ多いですよね。そういった層の方々にも、クラウドファンディングをきっかけに考え方を広めたかったのです。
直接お願いをした知り合いの方々以外にどんな人たちに興味を持ってもらえるのか心配だったのですが、クラウドファンディングのリリース後の反響は予想以上でした。赤磐に住んでいるけれどもお会いしたことの無い地域の方々、赤磐出身だけれども今は別のところにお住いの方々に、「赤磐をPRしてくれて嬉しい」「離れていて帰れないけれど赤磐の状況を知ることができて嬉しい」と活動に賛同いただきました。
幸いにもかなり多くのメディアに取り上げていただいたので、岡山だけでなく東京など、それこそどうやって知ったのかな、という方々からも支援をいただきました。資金面ではもちろんですが、それ以外についてもクラウドファンディングをやってよかったなと思っています。
<クラウドファンディングはこちら>
「赤磐産果物が変身!未利用資源を除菌ウエットティッシュの原材料に」
これからの展開
ブドウの後にはモモを利用しての除菌ウェットティッシュを開発を検討しています。
サーキュラーエコノミーの商品づくりは5年計画ぐらいで考えていて、1年目の現在は赤磐産のブドウとモモの除菌ウェットティッシュを計画。今後も学びながら、様々な方々と共に私たちの出来る事を少しずつ形にしていきたいと思っています。
協力隊のミッションである観光協会のプロジェクトとしては、サステナブルな体験をコンテンツに含めたいですね。しばらくは遠くに行くことが難しい状況が続くと思いますので、身近でできる魅力的なことを考えて発信していきたいです。
最後に
戸田さんが立ち上げたクラウドファンディングは、当初の目標である80万円を上回る125.4万円を達成、135人からの支援を受けて7月1日に終了。
プロジェクトのページに寄せられた135の応援コメントには、
「町のPRだけでなくSDGsにも貢献できる素敵な取り組みですね」
「地元生産者を応援したいです」
「赤磐の返礼品が待ち遠しいです」
など、全国各地から戸田さんの取り組みへのエールが寄せられていました。
自分から目標に向かって躊躇なく進むタイプではない、と語る戸田さんでしたが、静かな中に秘められた発想力や企画力に、人の心を動かすものを感じました。
これから戸田さんがどんなことをされるのか、WEELSは今後もその活動を追いかけ、応援していきたいと思います。
<戸田 洋美さんのSNSはこちら>
株式会社ハイナス・アンリミテッド代表 兼 WEELS編集長。ライティングやSEO対策を得意とし、日英バイリンガルの英会話トレーナーとしても活動。週末はもっぱらキャンプ。