限りある資源の消費やごみ処理による二酸化炭素の排出量を減らし、環境になるべく負荷をかけないようにするための「リサイクル」。ペットボトルやプラスチックトレーの回収など、今では私たち個人の生活でもごく普通のこととなりました。
そんな中、近年あらゆる業界で注目を集めているのが「アップサイクル」。リサイクルと同様で環境に優しい循環をつくるのが目的ですが、実はそれぞれがやや異なる意味合いで使われているのをご存知でしたでしょうか?
そこで本記事では、アップサイクルの意味やリサイクルとの違い、アップサイクル商品の事例などをご紹介したいと思います!
アップサイクルとは
アップサイクル(英語では「upcycling」)とは、使われない・使われなくなったものを、よりよい質や環境に優しい製品につくり替えることです。もとの素材や形のよいところを引き継ぎつつ、アイディアやデザインをプラスすることで付加価値を与えます。
例えば、家を壊したときに出た廃材で家具をつくったり、古くなったり穴が開いたテント生地をバッグにつくり替えたり、アクリル板をキーホルダーにするなど、素材によって様々なアップサイクルが可能です。
実は、アップサイクルという言葉が初めて使われたのは遡ること1994年。ドイツの自動化技術企業「ピルツ(Pilz GmbH & Co.)のライナー・ピルツ(Reiner Pilz)氏が、Salvoというメディアの記事の中で「ダウンサイクル(*1)」の対となる言葉として使用しました。
SALVOの記事はこちら
ちなみに、2019年に「アップサイクル」はイギリスの権威の高いケンブリッジ辞書の「ワード・オブ・ザ・イヤー」に選ばれています。このことからも、世界の環境問題への意識がかなり高まってきていることがわかります。
*1 ダウンサイクルとは、素材の価値が失われるのが前提でリサイクル製品を生み出すこと。
リサイクル・リユース・リメイクとの違いは
リサイクルはアップサイクルと異なり、素材を原料に戻したり、他の素材につくり替えるという概念はありません。そのため、再生に使われるエネルギーが少なくて済み、比較的小さい規模での設備やコストで新しい製品を生み出すことができます。
また、アップサイクルは「資源を活かしてもう一度使う」という意味では「リユース」や「リメイク」と同じですが、言葉の使われ方に少し違いがあります。
リユースは古着や空き容器を、原形のまま再利用することを言います。企業の工場や家庭から出る廃棄物(廃材・端材など)を再利用し、創造的なデザインやアート作品の素材にする「クリエイティブリユース」という言葉も存在します。
一方でリメイクは、素材のよさをそのまま生かして別の製品を生み出す意味で使われています。Tシャツからエコバッグを作ったり、和服をキッズ服につくり替えるなど、ファッション関連に使われることが多い言葉です。
アップサイクルに注目が集まっている理由
テレビ番組やインターネットでも度々取り上げられているアップサイクル。なぜ今ここまでアップサイクルに注目が集まっているのか、ここでは2つの大きな理由を挙げたいと思います。
環境への負担を減らし、資源を大切に使う
たくさん生産しては捨てて、再び新しいものをどんどんつくっているのが現代のものの流れです。資源を一度使っただけで捨ててしまう「使い捨て社会」が長期化していることで、温室効果ガス排出による地球温暖化の加速や、石油・石炭といった資源の枯渇などが懸念されています。
また現状のリサイクル技術では、素材によってはリサイクルできないものもあり、処理するためにはごみとして燃やすか埋め立てる必要があります。
一方、資源を活かして新たな命を吹き込むアップサイクルは、リサイクルに比べて再生にかかるCO2(二酸化炭素)の排出量を抑えることができるため、あらゆる側面から環境負荷の軽減に期待が持たれています。
また、そのままではリサイクルやリユースできないものをアップサイクルすることで、新たな資源を使うことなく魅力的な新しい製品へとつくり替える。もとの資源を生かして地上資源としての寿命を伸ばすことができるため、不用品の可能性を広げ、サステイナブルな資源循環が図れるのです。
アップサイクルビジネスとして取り組める
使われなくなったものや売れ残ったものなどを安く仕入れ、質のよい・価値の高いものにつくり替え、販売して利益を得る。環境問題やコスト負担などの問題を解消するビジネスとして成立させることができるのも、アップサイクルが注目を集める理由の1つと言えます。
特にファッション分野において、捨てられる生地の多さや、売れ残り品の廃棄量、リサイクル率の低さなど、生産活動が環境に与える負荷の大きさが指摘されています。そんな現状を受け、国連は2019年、アップサイクルを通して持続可能なファッションを推進する「ファッションチャレンジ」立ち上げ。企業・個人によるSNSでのアップサイクルへの取り組みや創作を投稿する呼びかけを始めました。
さらに、消費者の中で広がっているのが、倫理上正しいと判断できる商品を選ぶ消費行動「エシカル消費」。そのような消費者マインドに合わせ、アップサイクルの取り組みや商品開発を行っている企業がこれからもますます増えていくのではないでしょうか。
参照:国連 「ファッションチャレンジ」キャンペーン: アップサイクリングをライフスタイルに
アップサイクルの商品事例(ブランド別)
現在では多くの企業や個人がアップサイクル事業に取り組んでおり、流通商品からクラウドファンディングによる単発プロジェクトまで、さまざまなものがあります。
ここではアップサイクルの成功事例として、商品やブランドをいくつかご紹介したいと思います。
FREITAG(フライターグ)
1993年にスイスで生まれたバッグブランドです。トラックの幌(ほろ)と呼ばれる丈夫な素材をアップサイクルし、年間390トンの幌を再生。傷や汚れ、もともとのデザインが異なるため、1つ1つが違う一点ものの製品をつくり出しています。
不必要な輸送を減らすために、縫製以外は全て同じ工場内で行う徹底ぶりです。独自の植物繊維「F-ABRIC」は本社から半径2,500㎞以内で開発・製造している生地で、生分解性100%を実現しています。
NEWSED(ニューズド)
日本のNPO法人「NEWSED PROJECT」が2011年に始めたアップサイクルブランドです。
「古くなってしまったものを新たな視点で見ることで、別の新しいものとして蘇らせる」をコンセプトに、廃材が持つストーリーや形状を活かして商品づくり。学生や一般人向けのデザインコンペを定期的に行い、様々な素材の可能性を追求しています。
ファーメンステーション
ファーメンステーションは、「発酵で楽しい社会を!」をテーマに、国産オーガニックエタノールの製造や未利用資源を活用。岩手県奥州市の休耕田をフィールドに、今まで気にされることなく「ごみ」として扱われていた資源をアップサイクルしています。
エタノールの製造過程で出る発酵かすも化粧品の原料や飼料にし、さらに鶏糞や牛糞は肥料に活用するなど、ごみを最小限にする循環型社会を創り出しています。
Brewery Toast(ブルワリー・トースト)
Brewery Toastの「Toast Ale(トーストエール) 」は、廃棄される前のパンを集めてつくられたビール。ビールの原料となる大麦の代わりにパンを利用することで、土地・水・エネルギーの使用量とCO2の排出量削減に成功しており、これまでに200万枚以上のパンをビールに変えてきました。
創業理念には「食品ロス問題の啓発と解決のために作られたビール」とあり、Toast Aleの収益は食品廃棄物の削減に取り組むNPO団体「Feedback(フィードバック)」を中心に全額寄付されています。
最後に
アップサイクルが環境問題を全て解消してくれるわけではありませんし、考え方によっては根本的な解決にはなっていないと言う方もいるでしょう。
それでも、そのまま捨ててしまうのとは別の選択肢として、少しでも環境を守っていくために、アップサイクルという考えが広まっているのはとても素敵なことではないでしょうか。
生産者だけでなく、私たち消費者もどのような選択をしていくかが問われている、SDGsの目標12「つくる責任つかう責任」。WEELSでは今後も、私たちが普段の消費を見つめ直すきっかけになるような発信を続けていきたいと思います。
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ロンドンでファッションを学んだのち、文化女子大学で雑貨デザインやテキスタイルデザインを学ぶ。木枠を使った織物「ウィービングタペストリー」のワークショップを主催。モノを無駄にせず大切にすることと、人の個性を引き出すことを生業にしている。