何らかの理由で長期的に学校を休む不登校。誰もが目にしてきているはずなのに、不登校の原因や問題点について深く考える機会は少ないのではないでしょうか。不登校は当事者だけでなく社会全体で考えていく必要がある問題です。不登校になる原因と、それによって起こる弊害、対応策について考えていきましょう。
日本の不登校の現状
日本が不登校についての調査を始めたのがおよそ60年前。以来、不登校に対する社会の捉え方や不登校の児童数はどのように変わっていったのでしょうか。
不登校の捉え方の移り変わり
日本における不登校は1950年ごろから注目されるようになり、初めは単なる「学校嫌い」と捉えられていました。その後1980年代までは「登校拒否」と呼ばれ、学校に来ないのは本人の怠けややる気のなさではなく、精神的な病やストレスが原因だと考えられるようになりました。現在は「不登校」と呼ぶが多く、児童だけでなく学校や家庭、社会の問題であることが分かってきています。
小中学校における不登校の状況
小中学校の不登校児童生徒数は2019年時点で約18万人で、全生徒数と比べると2%に満たない数ですが、依然右肩上がりで増えています。このうち学校内の施設や機関で相談・指導を受けた生徒は半数以下にとどまっています。また、学校外の教育支援センターや児童相談所、病院などに相談した生徒も約3割程度で、残り3割の生徒は専門機関に相談していないのが現状です。
小学校から中学校の学年別で見ると、高学年になる程数が増え、特に中学2・3年生の生徒に多いことが分かります。一度不登校になると進級しても欠席が続いてしまう場合が少なくありません。
参照:文部科学省 – 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について2019
不登校になる原因・理由
不登校になる原因やきっかけは様々で、児童の性格や周りの環境だけで一概に言えるものではありません。また、複数の要因が重なって起こるケースや、児童自身が理由を言葉で表せない場合もあります。ここでは傾向として多い例を見ていきましょう。
学校に関する要因
学校環境が原因の場合、大きく分けて「友人関係」と「勉強」の2つが主な理由としてあがっています。
「友人関係をめぐる問題」ではいじめが原因としている生徒が小中学校全体の0.3%なのに対し、いじめ以外の友人関係が原因としている生徒が15.1%となっています。このことから、いじめよりも些細なことが原因になっている場合が多いことが分かります。具体的な理由としては「人付き合いが苦手」「一人ぼっちが苦痛」「学級崩壊などで教室の雰囲気が悪い」などが挙げられています。
「学業の不振」が原因としている生徒は全体の7.2%で、周りと比較して落ち込んでしまう場合や、成績不審などで勉強への意欲を失っている場合があります。ほかにも、中学に進学して小学校とのギャップに悩むケースや、中学3年生が受験のプレッシャーに悩むケースもあります。
家庭に関する要因
家庭環境が原因としている生徒の中で一番多いのが「親子の関わり方」で、全体の10.2%となっています。親の無関心が原因で子どもが無気力になるケースと、逆に親の過干渉が子どものストレスになるケースがあり、どちらも不登校の要因になると考えられています。
その他に、「家庭の生活環境の急激な変化」や「家庭内の不和」が原因として挙げられています。家庭環境が原因の場合、子どもが居心地よく過ごせる場所がなくなってしまう問題があり、保護者・児童双方のケアとともに周囲のサポートが肝心です。
これといった理由がない場合
大きなきっかけがあった訳でもなく、なんとなく不登校になっていく児童もいます。「なんで行きたくないの?」と親や先生に聞かれても言葉にできず、本人にすら原因が分からないケースです。
ちょっとした違和感や不安、気持ちの変化が重なって消化できなくなってしまう子もいれば、学校や勉強以外のことに興味が出て、ふとしたタイミングで学校に行かなくなる子もいます。いずれの場合も児童の中で複雑な心理変化があることに変わりはなく、周りの大人が時間をかけて寄り添ってあげることが大切です。
不登校になることの問題点
学校に通学しないことでどのような問題が発生するのでしょうか。想定できる事柄を考えていきましょう。
勉強の遅れ
学校の先生や親など、周りの大人が真っ先に心配するのが勉強の遅れでしょう。フリースクールや塾に通っている場合を除き、家で学校と同じように勉強をしないとついていけなくなると親が焦るのも無理はありません。
学校の授業のように時間や場所に拘束されないぶん、ある程度自分の意思で勉強する必要が出てきます。中学生や高校生は進学についても意識しながら計画的に学ぶことが求められるでしょう。
社会性の欠如
日本では社会のマジョリティが学校教育を受けて育つことを考えると、学校に一定期間通わないことで懸念されるのが「社会性」や「コミュニティー能力」の欠如です。
同級生との人間関係や他学年との関わりなど、学校の日常生活で培われる社会性を、学校に通わずとも習得していく必要が出てきます。特に学校の友人関係や家庭内の不和が原因で不登校になっている場合は、学校以外のコミュニティに属するなどして、他者と普段から関われる環境を作ることが大切です。
不登校の長期化
学校に行かないことが日常化すると、授業でやっていることが分からなくなったり、友人と共通の話題ができなくなったりと心配事が増え、不登校が長期化していきます。
休み出したきっかけはささいなことであっても、家にいることが普通になるとその合理性から抜け出す意味を見い出せなくなり、さらに不登校が長引くといったケースは珍しくありません。長期化しないためには初期の段階で迅速に対応することが大切です。
不登校への対応方法とは
不登校になる原因や問題点が分かってきたところで、ここからは不登校になった場合の対応の仕方について考えていきましょう。
学校や地域の相談所を利用
国や各地方自治体は学校や児童相談所、教育支援センターなどに、スクールカウンセラーやスクールアドバイザー、スクールソーシャルワーカーと呼ばれる専門員を配置しています。
施設によっては相談・カウンセリングだけでなく、学習支援や課外活動、家庭訪問なども行っています。まずは相談しやすい身近な施設に足を運んでみるとよいでしょう。
専門家や医師に相談
なんとなく無気力・情緒不安定になっている子など、心身に不調があらわれている子については専門家のアドバイスが必要な場合もあるため、専門機関や相談窓口の臨床心理士や教育相談員に相談してみましょう。
さらに専門的な意見が聞きたい場合は精神科や心療内科を紹介してもらうのもよいでしょう。いずれの場合もまずは保護者が話を聞き、本人の意思を確かめながら焦らず前に進むことが大切です。
フリースクールやホームスクールを利用
学校に関わる問題が原因で不登校になっている児童は、ホームスクールやフリースクールを活用するとよいでしょう。周囲の音に過敏になってしまう子や、集団の中にいることが苦手な子には自宅で学習する方がかえって効率的に学べる場合もあります。
また、フリースクールは施設によって規模や特色が様々で、児童の特性似合った施設を比較検討することができます。家以外の場所に身を置いたり、毎日接している家族以外の人と会うことで刺激になり、気持ちに変化を生み出すこともできるでしょう。
不登校児童のためのサービスや取り組み
近年新たな学びの場として、様々な分野でオンライン学習サービスが人気になっています。子ども向けの学習サービスの中には、学校の学びに代わるようなプランも出てきています。不登校児童が利用しやすい学習サービスや学校の取り組みについて見ていきましょう。
ICT教材を使ったオンライン学習
文部科学省は一定の条件を満たせば、ICTなどを活用した学習活動を出席扱いにすることを認めています。
現在、文部科学省と連携しているICT教材は「すらら」と、「クラスジャパン小中学園」の2つ。学校長や担任の先生と相談しながら活用することで、自宅で学習しながら出席・成績の評価を得ることができます。
「すらら」はこちら
「クラスジャパン小中学園」はこちら
オンライン授業や別室授業
2020年にコロナウイルスの影響で学校が一斉休校となりました。その間オンライン授業を行っていた公立学校はわずか5%ほどでしたが、一方でこの一斉休校をきっかけに新たな取り組みを始めた学校もありました。
大阪市立・市岡中学校はオンライン授業を取り入れて欲しいという保護者の意見を受け、学校の授業を撮影したものをライブ配信機能を使って別室で視聴できるようにしました。従来の別室登校と比べて、クラスの中で授業をしている臨場感を感じやすくなっています。
また、学校によっては同時双方向型のオンライン指導を行っているところもあり、今後オンラインを利用した学びの場に期待が持たれます。
参照:withnews – オンラインで気づいた「40人授業の限界」 不登校でも「これなら…」
最後に
不登校児童は社会の捉え方は変化しているものの、どの時代にも一定数いることが分かりました。国や学校、各家庭が様々な対応を試みても数が減っていないのが現状です。
このことから、再び学校に通うことを促す対応策だけでなく、不登校児童が学びやすい多様性のある環境を作っていくことが今後大切であるといえます。
WEELSでは今後も子どもの不登校問題について発信していきたいと思います。
ロンドンでファッションを学んだのち、文化女子大学で雑貨デザインやテキスタイルデザインを学ぶ。木枠を使った織物「ウィービングタペストリー」のワークショップを主催。モノを無駄にせず大切にすることと、人の個性を引き出すことを生業にしている。