和歌山県かつらぎ町で無農薬ブルーベリーと原木椎茸の栽培を行いながら、売り物にならない廃棄フルーツに新たな命を吹き込むアップサイクル事業にも取り組む猪原有紀子さん。
道端に大量に捨てられていた柿と子育ての悩みをヒントに、2年越しで開発に成功した「無添加 こどもグミぃ〜。」を販売。廃棄フルーツを活用することで、育児・農家・障がい者就労の課題解決に貢献しています。
現在は、日本一子連れが歓迎される観光農園「くつろぎたいのも山々」のオープンを目指し、クラウドファンディングでの資金調達にも挑戦中。今回はそんな猪原さんの取り組みへの想いや、これまでのストーリーについてお話を伺いました。
猪原有紀子さんのプロフィール
起業家であり、3児の母。2018年の夏に大阪市から和歌山県かつらぎ町へ家族で移住。自然溢れる環境に魅了される中で、都会の子どもたちにも自然体験を届けたいと想いから、「くつろぎたいのも山々。〜母と子どもの365日〜」と名付けた農家発のD2Cブランドを立ち上げる。前職のWEBマーケティングや育児、移住後に始めた農業で得た経験を活かし、地域資源を活用したアップサイクル事業を積極的に展開している。
田舎移住のきっかけ
元々は大阪市でWEBマーケティングの会社に勤めていました。その頃は特に移住について考えてはいなかったのですが、7年前のある日、夫と広い土地をネット検索して探すという遊びをしていたときに、たまたま一番最初に出てきたのが現在暮らしている和歌山県かつらぎ町でした。
一目惚れするような美しい山景色の写真を見ているうちに、どんな場所か気になるから実際に見に行ってみようということになりました。初めて訪れたかつらぎ町の自然は写真で見た通り確かに美しく、夫はかなり心を動かされたようでした。
一方、都会生活が長かった私にとってはそのような田舎で生活をするイメージが湧かず、夫とは対照的にあまり乗り気ではありませんでした。その後、長男・次男・三男と3人の子どもを出産したのですが、その間も夫は2〜3年ほどかけてかつらぎ町に移住するメリットを私にプレゼンしていました。次第に下見もかねて度々かつらぎ町まで足を運ぶようになりました。恐らく20回くらいは訪れたと思います(笑)。
また、その頃は育児のストレスや大好きな仕事ができない状況で、色々と限界を感じていました。そのような状態でかつらぎ町に行ったある日、あることに気がつきました。
「何度訪れても、田舎すぎて生活するイメージが湧かない!中途半端な場所に移住するよりこんな場所に移住した方が絶対にいい!変化が大きい方がいい!」
それがかつらぎ町への移住を決意した日でした。結局その土地を購入して家を建て、三男を出産後、2018年5月に家族5人で大阪から移住しました。
移住後も夫は大阪まで片道2時間かけて通勤していましたが、コロナウイルス流行後は主に自宅でテレワーク。私は育児休暇中に移住し、夫のように大阪まで通う気でいたのですが、あることがきっかけで農家に転身することになりました。
会社を辞め農家へ転身
移住前にかつらぎ町で生活するイメージが湧かなかったのが嘘だったかのように、今は毎日「田舎の生活最高!」って言っているくらい楽しんでいます。
こちらでは都会では見れないカブトムシや蛍など、図鑑で見ていたものがウッドデッキに飛んできます。息子たちは虫が大好きなので、移住してからは彼らの楽しそうな姿を見れることが増えました。親としては、子どもたちが元気に過ごしてる姿を毎日見れるのはとても嬉しいことです。
そんな生活を楽しんでいたある日、無農薬でブルーベリーを育てている農家に家族でお邪魔しました。そのときに、子どもたちがそこのブルーベリーを美味しそうにパクパク食べている姿を見て、今までにはなかったような感動を覚えました。
そのときはまだ大阪の会社に籍を置いたまま育児休暇中だったのですが、あの感動がきっかけとなり1年半前に会社を辞めて農家へと転身しました。現在は無農薬でブルーベリーと原木しいたけを自分で育てながら、アップサイクル事業として廃棄フルーツからつくるグミの販売も行っています。
廃棄フルーツからつくる「無添加 こどもグミぃ〜。」
長男が2歳の頃、とあるカラフルなグミが大好きでした。着色料や砂糖といった添加物が多く含まれているので本当は与えたくはなかったのですが、その頃は子育てのストレスや、大好きな仕事ができないことで、精神的にもかなり参っていました。泣いたり叫んだりする子どもがおとなしくなるので、罪悪感を抱えたままついつい食べさせていました。
移住前はそんな生活が続きながらもかつらぎ町に足を運んでいたのですが、あるとき道端に大量に廃棄されていた柿を目撃しました。売り物として出荷できないとはいえ、「このまま捨てられてしまうのはすごくもったいない。何かに使えないのか。」と考えるようになりました。
そこで閃いたアイディアが、現在販売している「無添加 こどもグミぃ〜。」でした。
子どもが大好きなカラフルで美味しいグミを、廃棄フルーツを使って無添加でつくれないか。それができれば、自分と同じようなストレスを抱えている育児中のお母さんたちの負担も減らすことができるのではないか。
そこで一念発起し、大阪市に住んでいたときからかつらぎ町の起業支援に応募し続けました。4度も落選してしまったのですが、なんと審査員の1人が食品乾燥の研究をしている教授を紹介してくれ、2018年に大阪市立大学・畿央大学との共同開発が実現。2020年には開発に成功し、2年という歳月を経て販売をするまでに至りました。
「無添加 こどもグミぃ〜。」は柿・ブルーベリー・りんご・梨・イチゴ・キウイ・いちじくを使って製造しており、無添加ながらカラフルで甘いのが特徴です。定期便サービスで販売しており、大量生産は行っていないため50名様限定となっています。1・3・6ヶ月プランを用意しており、毎月5袋ずつのお届けしています。
「無添加 こどもグミぃ〜。」で食品ロス・農家・障がい者就労の課題解決に貢献
「無添加 こどもグミぃ〜。」がまだ開発段階の頃、福祉施設の障がい者の方たちの仕事が不足しているということを知りました。そこで、少しでも障がい者の方の就業支援に貢献できるよう、グミの加工作業を地域の障がい者福祉施設にお願いすることにしました。
売り物にならない廃棄フルーツを農家から買い取り、同じ地域の福祉施設で加工をすることで、双方に収入が生まれる仕組みができます。また、捨てられるはずの食品をアップサイクルすることで、食品ロス問題の解決にも貢献できます。
元々はお母さんたちの育児ストレスを少しでも解消したいというのが始まりでしたが、色々な縁がありこのような輪が生まれました。この輪を全国に広げていくべく、今は廃棄フルーツを買い取らせていただける農家や、加工を行っていただける障がい者福祉施設を全国的に探しています。
日本一お子様連れを歓迎する観光農園をつくりたい
実は今、日本一子連れが歓迎される観光農園「くつろぎたいのも山々」を今年の7月17日にプレオープンさせるべく色々と動いています。
子どもたちをフルーツ狩りに連れていくたびに、「授乳スペースがない」「トイレが遠い」「ベビーカーに乗せたまま入れない」といった不便さを感じていました。また、子どもたちが騒いでいるのをきつく叱ってしまうということも多々ありました。
これではお母さんたちの負担が大きく、子どもたちも我慢しなければならない。保護者が周りを気にせずもっとリラックスできて、子どもたちも思いっきり走り回ったり大きな声を出しながら自然や虫と触れ合える場所があったらいいのに。
そんな想いを抱くようになったある日、家の近くにある広大な耕作放棄地を見て、「この土地が欲しい。ここに観光農園をつくり、地元や都会の親子にもこの豊かな自然の中で思いっきり楽しんで笑顔になってほしい」という感情が湧き上がりました。
次から次へと起こる奇跡
移住前はかつらぎ町に知り合いは1人もいませんでしたが、子どもたちが通う保育園を通じてできたママ友たちに仲良くしていただいています。自ら作成したプレゼンブックを使って彼女たちに観光農園でやりたいことを話すと、みんなが応援してくれたり色々な人を紹介してくれるようになりました。
また、観光農園として使いたいと思っていた土地の地主の奥様がママ友の友達という奇跡。早速そのママ友経由で地主さんを紹介していただき、その土地を観光農園用に借りれることになったんです。
さらにある日、音声SNSのclubhouse(クラブハウス)で、ママさんインフルエンサーの方たちが話していたとあるルームに入って話を聞いていました。そのときなぜか「ここで絶対に何か発言したほうがいい」という直感が働き、思い切って会話に参加して計画している観光農園のことを話してみました。
すると、なんとリスナーの中に自分の販売する「無添加 こどもグミぃ〜。」のお客さんが数名いるという奇跡!さらに、「PRを手伝わせてください」「クラウドファンディングのサポートをさせてください」と名乗り出てくれる人たちまでいました。
極め付けの奇跡は、Instagramで観光農園プロジェクトのことを発信し始めた頃。住所はどこにも公開していないのに、投稿していた写真の風景を頼りに隣町から家まで訪れ、観光農園のスタッフとして参加したいという方まで現れました。凄くびっくりしましたが、そこまでして会いにきてくれるということがとても嬉しかったです。
なんでこのような奇跡が次々と起こるんだろうと、ときどき不思議な気持ちになります。でも、そんなことが起きるたびに必ず社会のお役に立っていくことを決意しています。だからこそ、これまでに起きている1つ1つの奇跡を大事にして進んでいきたいと思っています。
クラウドファンディングに挑戦
「くつろぎたいのも山々」をオープンさせるにあたり、3,700万円の借入をしています。これは借りられる額の上限なのですが、子どもたち用の遊具設置や休憩スペースとしてのテント購入のための資金が不足しています。
そこで今回、私にとっては初めてのクラウドファンディングに挑戦し、All-or-Nothing方式で300万円を目標金額として資金を募ることにしました。リターンには観光農園プロジェクトの参加権利や、宿泊もできるプライベートテント、ブルーベリーの木を丸々1本所有できる権利、1日貸し切りなど、たくさんのリターンを用意しています。
ありがたいことに5日で達成し、今ネクストゴール500万円で、日本一のユニバーサルトイレの実現を掲げて走っています。「おむつ替えが必要なのは赤ちゃんだけじゃない。」福山型先天性筋ジストロフィーのお子様をもつ、加藤さくらさんというお母さんと出会い、一緒にこのゴールに向かって突き進んでいます。
ぜひ、このプロジェクトを応援して頂きたいです!
クラウドファンディング(READY FOR) – 和歌山県かつらぎ町に “子連れでも疲れない観光農園”をつくりたい!(支援募集は5月13日(木)午後11:00まで)
くつろぎたいのも山々について
くつろぎたい山々は、小学生以下の子連れグループのみ入場可能です。現役の保育士やお母さんがスタッフとして常駐しているので、子どもたちが思いっきり遊びまわっていても保護者は安心して自然の中でくつろげる環境となっています。
また園内ではブルーベリーや椎茸の収穫やバーベキューや焚き火、テントでの宿泊も可能。里親として子どもたちが触れ合えるヒヨコを飼育し、ニワトリになったら養鶏場へ返すということも計画しています。
ブルーベリーの収穫シーズンまでに間に合わせたいというのもあり、今は7月17日に「くつろぎたいのも山々」をプレオープンさせるべく毎日走り回っています。凄く目まぐるしい毎日ですが、少しずつ形になっていっていることがとても楽しいです。
最後に
今回、猪原さんとお話をさせていただき、ソーシャルグッドな事業はもちろんのこと、彼女の行動力にとても胸を打たれました。
彼女の事業やこれからのプランを話す姿を見て、「絶対成功してほしい」と心から思いました。これが猪原さんの惹きつける力であり、たくさんの人たちからの応援を得られてる理由なのでしょう。
WEELSではこれからも猪原さんの活動を応援しながら注目していきたいと思います。
株式会社ハイナス・アンリミテッド代表 兼 WEELS編集長。ライティングやSEO対策を得意とし、日英バイリンガルの英会話トレーナーとしても活動。週末はもっぱらキャンプ。