貧困問題は今や一部の国や地域だけの問題ではなくなってきました。SDGs17の目標の1つ「貧困をなくそう」について、今回は特に子どもの貧困問題について考えていきたいと思います。
子どもの貧困問題とは
貧困問題と聞くと日本は無縁だと思う人がほとんどではないでしょうか。ところが最近では日本を含む先進国で子どもの貧困問題が顕著化してきています。子どもの貧困問題の現状と、解決に向けた社会の動きをみていきましょう。
先進国の貧困について知ろう
「貧困」と聞くと食べ物がなくやせ細っている人や、住まいがなく外で暮らさなくてはいけない人のことを思い浮かべるのではないでしょうか。この様に最低限の生活水準(国際基準では1日1.9ドル以下)で生活している状態を「絶対的貧困」と呼びます。現在世界の10人に1人が絶対的貧困の状態にあると言われています。
一方で国や地域の所得に対して、一定水準より貧しい状態を「相対的貧困」と呼びます。国や地域の平均所得の半分未満にあたる状態で、生活はできるものの経済的に厳しい境遇にあることを指します。
相対的貧困を提唱したイギリスのタウンゼント氏は「人々が社会で通常手にいれることのできる栄養、衣服、住宅、居住設備、就労、環境面や地理的な条件についての物的な標準にこと欠いていたり、一般に経験されているか享受されている雇用、職業、教育、レクリエーション、家族での活動、社会活動や社会関係に参加できない、ないしはアクセスできない状態」と定義しています。
相対的貧困は近年、先進国を中心に問題になってきています。絶対的貧困と違い困窮していることがはたから目に見えにくい分、家庭内だけで悩みを抱えてしまう傾向があります。そのため、いつまで経っても問題が解消されず、負のループにおちいりやすいと考えられます。
他人ごとではない日本の現状
日本の相対的貧困率は2018年時点で15.4%で、18歳未満の子どもの貧困率は13.5%です。つまり約7人に1人の子どもが相対的貧困であることが分かります。この数字は他の先進国と比べても悪く、早急な対策が求められています。
最低限の衣食住はできても常に経済的に余裕がないので、他の家庭が当たり前のようにしている習い事やレジャー、スポーツなどが自由にできないといった偏りが生まれ、子どもの成長過程に影響が出ています。
参照:相対的貧困率等に関する調査について(2018厚生労働省)
子どもの貧困が社会に与える影響
子どもの貧困は当事者だけでなく、日本社会にも大きな影響をもたらしています。まず財政面では所得が少ない分世帯の納税額が限られており、同時に社会保障を受ける必要が出てきます。
日本財団「子どもの貧困の社会的損失推計レポート(*1)」で発表されたシナリオによると、子どもの貧困に対策を講じた場合と放置した場合とを比べると、政府の財政負担は1年で1.1兆円もの差が出ると推定されています。
ただ、貧困に陥ってしまった原因は当事者だけにあるとは限りません。社会への影響を踏まえた上で、子供の貧困が増えている原因を探っていきましょう。
子どもの貧困の原因
子どもの貧困はなぜ起こり、そしてなぜなくならないのでしょうか。今後解決していかなくてはいけない日本社会の課題をみていきましょう。
親の収入が不安定
子どもがいる世帯のうちひとり親家庭の貧困率は48.1%で、親が2人以上いる場合の10.7%に比べてかなり高い比率となっています。これは単に収入源が少ないだけでなく、ひとりで子どもを育てながら働ける業種や就労形態が限られていることに原因があると考えられます。
またアルバイトや契約社員、派遣社員などの非正規雇用の人は、いわゆる「ワーキングプア」になりやすく、働いても働いても楽にならない状態が続いてしまう傾向もあります。
教育格差の連鎖
親の学歴や収入と子どもの学力には相関関係があると考えられています。家庭の経済状況がひっ迫すると、子どもが塾や習い事など学校以外で教育を受ける機会が減り、学力の差を生んでいます。
学力の差は大学進学率、はたまた就職にも影響を及ぼし、さらに次の世代の貧困にもつながっています。子どもの貧困を食い止めるためには、質の高い教育を収入の差に関係なく受けられるようにする必要があります。
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高齢化により子ども支援の予算が低い
先進国が加盟するOECDの中でも、日本の相対的貧困率は最悪水準にあると言われています。その要因の1つに、子ども支援に関する予算が増えないことがあげられます。
社会保障関係予算は年々増加しており、2020年度は全体予算の34.9%で35兆円を超えています。そのうち年金に充てられているのが35%であるのに対し、少子化対策費はわずか9%にとどまっています。
また、国が児童手当や出産・育休給付などにあてる家族関係社会支出は、イギリスやスウェーデンといったヨーロッパ諸国に比べて極端に少ないことが懸念されています。子どもが少なくなっているからこそ、次世代の日本を担う人材の支援に、もう一歩踏み込んだ議論を期待したいところです。
参照:令和2年度(2020 年度)社会保障関係予算(参議院常任委員会調査室・特別調査室)
貧困による子どもへの影響
子どもは成長する過程で様々な価値観に触れ、次第に人格を形成していきますが、核家族化や地域コミュニティの希薄化が進む現代では、家庭環境が子どもにとって非常に大きな影響をもたらします。家庭内で経済的に苦しい状況が続くと、子どもにとって少なからずネガティブな作用を与えてしまいます。
親と過ごす時間が限られる
子どもの貧困問題を抱えている人は、ひとり親やワーキングプア世帯に多いことが分かっています。そのため親が仕事で家を空けている時間が長く、コミュニケーションをとる機会が他の子どもと比べて極端に少ない傾向があります。
親と過ごす時間が短いと、勉強の質問やちょっとした悩みを思うように相談できなかったり、親から学べることが限られてしまったりと、子どもの成長に大きく影響する可能性があります。
栄養不足と偏った食事
相対的貧困は絶対的貧困と違い、飢えるほど食に困ることはほとんどありません。ただ、食べ物の種類が限定されたり食生活が乱れやすいことから、栄養不足になりやすい傾向があります。
親の帰宅が遅い家庭では夕食を子どもだけで摂ることになり、栄養が偏る、孤独を感じる、食事を楽しめなくなるなどの問題点があげられます。
心の負担
経済的に余裕がないと家庭内に疲労やストレスが溜まりやすく、子どもの精神面に影響が出やすくなります。生活に困窮している家庭の子どもほど抑うつ傾向があることが分かっており、自分に自信がない、ネガティブ思考、人付き合いが苦手といった特徴があります。
子どもの貧困問題の解決策
貧困は子どもにとって大きな影響を与えていることが分かりました。ではどうしたらこの問題が解決に向かっていけるのでしょうか。
教育を受けるための支援
貧困の悪循環を生み出している要因の一つが教育格差です。教育格差から抜け出すためには、教育を受ける機会を増やしたり、進学を希望する子どもをサポートする教育支援が不可欠です。調べてみると各地方自治体や地域のNPOが、学習支援や放課後教室、ワークショップなど様々な角度から支援を行っていることが分かります。
それらを子どもの学びに確実に繋げるためには、学校や周りが積極的に情報を伝え、同時に当事者たちも能動的に学ぶ場を探そうとする気持ちと行動力が大切です。
親の就業支援
政府はひとり親世帯に職業訓練のための給付金を出したり、各地に支援センターを開設するなどの対策をしていますが、どれも利用者は極めて少なく、該当世帯の約半数の人が制度を認知していないことが分かっています。子どもの教育支援も親の就業支援も、必要なところに必要な情報を届けることが解決への第一歩と言えるでしょう。
関わる場をつくる
支援環境をいくら整えても、それが当事者に伝わらなくては根本の解決にはなりません。一番大切なのは一人一人が貧困問題の現状を知り、他人事だと思わずにできることから行動することです。
生活に困窮している家庭は地域や社会から孤立しやすく、問題が一向に解決されない状況に陥りがちです。家族や親戚だけでなく学校が、近所に住む人だけでなくコミュニティが、そして社会全体が自ら関わろうと努力し、助け合える環境を作ることが大切です。
子どもの貧困問題への取り組み
近年子どもの貧困問題が大きく取り上げられるようになってきたこともあり、政府や地方自治体、NPOなどが様々な対策やプロジェクトを行っています。
政府主体の取り組み
政府は2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を定め、子どもの生活環境や教育機会の整備に関する基本理念を掲げて、子どもの貧困対策にあらゆる方面から取り組んでいます。
政府が主体となっているプロジェクトの1つに、社会全体で子どもの貧困問題を解決していくためにスタートした「子供の未来応援国民運動(*2)」という取り組みがあります。寄付を募って学習支援団体や子ども食堂の運営資金にしたり、NPOのニーズと支援したい企業をマッチングを行っています。スーパーマーケットの物流システムを利用してフードバンクや子ども食堂に繋げる「ハローズモデル」は食品ロスの削減にも貢献しています。
*2:子供の未来応援国民運動
子どもの食をサポートするサービス
無料または低価格で食事を提供する「子ども食堂」は、2012年に東京都大田区にある「気まぐれ八百屋だんだん」が始めた取り組みで、2020年には全国5,086箇所に広まりました。
子ども食堂は温かく栄養のある食事が摂れるだけでなく、地域の人と集うことで大切なコミュニケーションの場となっています。子どもに食事を提供するというシンプルさから、貧困問題を意識していなかった層への啓発にも繋がっています。
日本以外の先進国の取り組み
日本より早くから子どもの貧困問題に取り組んできたイギリスでは、1999年にブレア首相(当時)が「2020年までに子どもの貧困を撲滅する」と宣言したのを皮切りに、子どもの貧困対策を積極的に行ってきました。日本との違いは、具体的な数値目標を設定して進行状況を国会で報告し、3年ごとに戦略の見直しを行っていることです。その結果1997年から10年間でひとり親世帯の子どもの貧困率が49%から22%に半減しました。
OECD主要国の中で子どもの貧困率が極めて低いデンマークでは、子どもは社会がみんなで育てて、大人になれば社会を支える存在になるという考えが根付いています。所得税や消費税が他国に比べて高い代わりに、最低賃金の基準は1時間あたり約2,000円と高水準です。また、出産費用や医療、学校教育は全て税金でまかなわれるため、子育て世帯が貧困になりにくい仕組み作りが整っていると言えます。
最後に
子どもの貧困問題は社会全体で取り組まなくてはならないフェーズに入ってきています。この問題に関心を持ってもらえる人が1人でも増えるよう、WEELSでもこの問題について引き続き発信していきたいと思います。
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ロンドンでファッションを学んだのち、文化女子大学で雑貨デザインやテキスタイルデザインを学ぶ。木枠を使った織物「ウィービングタペストリー」のワークショップを主催。モノを無駄にせず大切にすることと、人の個性を引き出すことを生業にしている。