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世界や日本でも広がる教育格差|原因や解決への取り組みを解説

教育格差は、子供が生まれ育った環境・保護者の所得・生活水準などにより受けられる教育成果の差のこと。様々な原因で生じる教育格差は海外だけでなく日本でも広がっており、貧困にも繋がる社会問題の1つとなっています。

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)4には「質の高い教育をみんなに」が掲げられ、政府や企業は教育の格差をなくすためのあらゆる取り組みを行っています。

そこで今回は、一人でも多くの方にこの問題に関心を持っていただけるよう、教育格差の原因や、問題解決への取り組みなどについて解説していきたいと思います。

世界の教育格差の原因

世界には6〜14歳で学校へ行けない子どもたちが約1億2100万人。十分な教育を受けられず大人になり、文字の読み書きができない人は約7億7300万人もいると言われています。世界の教育格差は何が原因で起こっているのでしょうか?

戦争・紛争

戦争・紛争

教育格差の原因の1つとして挙げられるのが、世界各地で起きている戦争・紛争。よくニュースで聞くアフガニスタン・イラク・シリア以外にも、アフリカ大陸では多くの国が戦争や紛争が起きており、エチオピアでは近年1万人以上の人が亡くなっています。そのような状況の中では教育をまともに受けられる環境が少なく、子供が戦場へ行く「子ども兵士」も珍しい話ではありません。

また戦争が長期化している場合も多く、頑丈につくられた町の中心部の学校は訓練所や避難所に指定されることも。軍の訓練が行われる横で子どもたちが勉強をすることになり、学校が攻撃されえ子どもたちが命を落とすケースもあります。登下校中も攻撃に巻き込まれる可能性があり、安心して通うことが難しい状況となっています。

なんとか祖国から近隣国へ避難しても、難民差別を受けるなどの苦難が待ち受けていることもあります。避難先の国と言語と母国語が違い、教育を受けられる環境にいても理解が困難な場合も。目まぐるしく生活環境が変わることで精神的に大きな負担があり、子どもたちにとっては厳しい状況と言えます。

貧困

貧困

貧困も教育格差の大きな原因です。開発途上国では保護者が教育を受けられずに大人になっていることも多く、教育そのものの必要性が理解できず子どもに教育を受けさせない家庭があります。無償で学校へ通える環境が整っていても、教育を受ける時間があるならその分働かせたいという考えの人が多い現状があり、それがますますの貧困を招いています。

学校へ通い始めても家計を支えるために働かなくてはならず、卒業するまで通えない子どもも多くいます。サハラ以南アフリカでは最終学年まで終えて卒業する子どもは、全生徒数の半分にまで減少。特にアフリカ西部・中部の識字率は男女ともにとても低くいという現実があります。

世界では146の国や地域が開発途上で、世界の人口の8割が開発途上国に住んでいます。国連開発計画(UNDP)によると「地球に暮らす人間が100人だとして、読み書きができない人は15人。インターネットにアクセスできる人は5人にすぎない」と言われているほど貧困は大きな課題となっています。

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学校施設・教員の不足

学校施設・教員の不足

開発途上国にとって学校施設・教員不足も教育格差の原因の1つです。学校が遠くだったり、道中の道が険しく通えないという理由で就学を諦める子どももいます。

しかし、単純に学校を増やせば解決できる問題ではなく、学校運営の予算確保が難しかったり、学校を建ててもすぐに運営ができないという現実があります。

生徒数に対して教室が足りず、1つの教室に80人の生徒を入れて授業をしたり、午前と午後で分けたりといった工夫をしている学校もあります。ただ生徒1人ひとりにかけられる時間が減るため、必要な知識を身につけられない子どもが増えるという問題があるのです。

また、教員自身が十分な教育を受けられないまま育ったために、質の高い授業ができないという問題も。適切な研修を受けた教員が不足している上、さらに家で話す言葉と学校で教わる言葉の違いといった壁もあり、教える側の質の向上も課題の1つとなっています。

日本の教育格差の原因

戦争・紛争がなく、義務教育制度も整っている日本。しかし、そんな日本でも実は教育の格差が存在しています。

経済格差

経済格差

日本は開発途上国に比べれば豊かな国かもしれませんが、世界で見ると豊かとは言い切れません。経済協力開発機構(OECD)の2019年の審査報告(*1)によると、OECD加盟国の上位国をかなり下回るという結果が発表されています。

貧困には「絶対的貧困」「相対的貧困」の2種類があります。絶対的貧困は生活を維持することが困難な状態、相対的貧困は各国の生活・文化水準に満たない状態を指します。

日本は相対的貧困率が先進国の中でも高く、年々緩やかに高くなっている傾向が見られます。2020年に厚生労働省が公表した日本の17歳以下の子どもの相対的貧困率(2018年)は13.5%。およそ7人に1人が相対的貧困状態にある計算になります。

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中でも1人親世帯の貧困率は5割を超えており、母子家庭の所得が200万円以下の世帯がおよそ4割。学校の給食費・教材費・制服代などの工面だけでも精一杯で、子どもの学習管理まで目が届かないという家庭もあります。

また、学校以外の塾や各種習い事といった教育サービスを受けるのには費用がかかることがほとんどなため、経済的にそのような教育の場に通えるのとそうでない子どもとの間の教育格差もあります。

さらに、貧困による格差が大きく見られるのが大学進学率。公立・私立や学部によっても異なりますが、大学へ進学するには入学金をはじめ、授業料や教材費など様々な費用がかかります。

なお、貧困家庭の子供の大学進学率は全世帯の半分以下。最終学歴が中学と大学の人を比較するとおよそ7,600万円もの生涯年収の差があると言われており、教育格差と貧困は切り離せない課題となっています。

*1:OECD 対日経済審査報告書(2019)

地域間格差

地域間格差

居住地域によって教育格差が起きているケースもあります。例えば、地方では都心と比べると教育関連設備や1校あたりの教員・生徒数、塾や習い事の種類などが少ないです。そのような選択肢の量や質、環境の違いが地域間の学力差にも繋がっています。

また、都心部では自分の足や公共交通機関を利用して習い事に通える子どもも多いですが、地方だと親に車で送り迎えをしてもらわないと通えないというケースもあり、居住地域によって学習の機会が制限されるということもあります。

さらに、2017年に文部科学省がお茶の水女子大の研究者に委託した調査の結果(2)によると、保護者の学歴が高いほど子どもの学歴も高くなる傾向にあるとのこと。都心部に比べて地方の保護者の学歴が低いという調査結果(3)も出ているなど、子どもが育つ地域と学力の差にも大きな関係があると言えます。

2*:保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究

3*: Benesse(学力の地域格差)

学校間格差

学校間格差

新型コロナウィルスの流行により、私立校と公立校間の教育格差も注目されました。緊急事態宣言により一斉に全国の9割以上の小学校・中学校・高等学校など休校した際、私立校の多くはオンラインによる授業を提供。私立校に比べオンラインに対応した公立校は少なく、休校措置による教育格差を感じるという回答は過半数を超える58.6%でした。(*4)

また、進学校と普通校での教育の違いも学校間格差と言えます。難関大学への進学率が高い進学校では、普通校にはないような大学受験のための指導体制が整っており、進路別のクラス分けがされるなどの工夫が見られます。そのような環境の違いによって、生徒の学習に対する意識の差も大きく変わってくると言えます。

*4:日本財団「18歳意識調査」第26回テーマ:学校教育と9月入学について ―結果速報―2020.06.11

国内外の教育格差解消への取り組み

世界的な課題となっている教育格差の解消に向けて、国内外では様々な取り組みが行われています。ここでは、そんな取り組みの中からほんの一部の事例をピックアップしてご紹介したいと思います。

テレビ授業「家で学ぼう」(メキシコ)

テレビ授業「家で学ぼう」(メキシコ)

新型コロナウィルスの影響により学校が休校になる中で、世界各地でオンライン授業が行われています。しかし、ネット環境が整っていないという理由で、オンライン授業を行えない地域も多くあるのが現実です。

そんな中、メキシコでは大統領がテレビを授業を提案し、政府が正式に学校の授業として「家で学ぼう」と名付けられた授業プログラムを導入しました。

「家で学ぼう」は幼稚園児〜高校生までが対象。チャンネル数は9つもあり、政府機関とおよそ300人の現役教師が共に半年で2,600本以上もの授業を制作しました。

メキシコではインターネットに比べてテレビのほうが普及しているという現状もあり、テレビ授業を放映することで就学児童の90%以上にリーチすることができます。

ただし、経済的な理由でデジタル放送を見る環境がなかったり、民族によっては共通語であるスペイン語の理解が困難な場合もあるなど、テレビ授業においてもまだまだ解決すべき課題が残っています。

地方自治体による「放課後子ども教室」(日本)

地方自治体による「放課後子ども教室」(日本)

「放課後子ども教室」は、小学校の余っている教室を活用し、放課後や週末に子どもたちへ学びの場を提供。各家庭における教育力低下という課題解決が活動目的の1つとなっています。

地方自治体が主導し、ボランティアスタッフや地域住民が実際の活動をサポート。小学1〜6年の全児童が対象で、実施頻度や時間は地域によって異なります。

活動内容は学習だけでなく、スポーツや文化芸術活動なども行われ、それらのアクティビティを通して子どもたちの社会性・自主性・創造性を育むことも目的となっています。

NPO法人による学校外教育(日本)

NPO法人による学校外教育(日本)

あるNPO法人では、貧困状態にある子どもに対して塾・習い事・体験活動などで使えるバウチャー(クーポン券のようなもの)の提供。経済的な理由で諦めざるを得なかった学びや経験の機会が得られ、少しでも教育格差がなくなるような取り組みとなっています。

また、公民館や空き教室を活用した無償の「学習支援拠点」を設置し、大学生による質の高い指導を継続的に受けることができたり、大学生のボランティアが月に1度電話や面談で進路などの相談にのってくれるといった取り組みを行っている組織もあります。

親の経済状況や環境に左右されず、将来の夢や進学をかなえるためのサポートを無償で受けられる制度は、教育格差の是正にも大きく貢献していると言えます。自分の居住地域にもそのような取り組みが行われているか、ぜひ確認してみてください。

最後に

教育格差の原因は単純なものではないため、解消に至るまでは長い時間がかかることでしょう。

WEELSでは「 質の高い教育をみんなに」という目標に少しでも貢献できるよう、今後もこの問題について発信していきたいと思います。

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