今、母子・ひとり親家庭の地方移住に注目が集まっています。移住支援に力を入れている自治体も増えており、仕事と子育ての両立をしながら充実した生活を送れるよう、あらゆる面でのサポートを行っています。
そこで今回は、母子・ひとり親家庭の地方移住支援を行っている地域や、移住のメリット・デメリットなどを解説していきたいと思います。
母子・ひとり親世帯の貧困
WEELSでも取り上げたことのある子どもの貧困問題。その原因の1つに母子・ひとり親家庭の経済的理由が挙げられます。
ひとり親世帯の場合、子どもが小さいときは勤務時間の制限によって選べる仕事が限られることも。パートなどの非正規雇用での仕事と子育ての両立は経済的に苦しいだけでなく、体力的・精神的にも大きな負担がかかります。
平成28年度の全国ひとり親世帯等調査では、貧困ラインを下回るふたり親世帯が6.0%なのに対し、ひとり親世帯は43%。特に母子家庭の平均年収は平均200万円と、父子家庭の398万円と比較するとかなり低いことがわかります。
参照:全国ひとり親世帯等調査の結果報告 16 ひとり親世帯の平成27年の年間収入
各自治体が母子・ひとり親家庭の地方移住を促進する背景
国の政策である「地方創生」の取り組みの1つとして、各自治体による母子・ひとり親家庭の地方移住施策がされています。
母子・ひとり親家庭をターゲットとしている理由は以下が挙げられます。
- 1世帯移住することで子ども人口が増え、少子化対策になる
- 親が働き盛りの世代であれば、労働力不足の解消に繋がる
政府もひとり親家庭の自立応援プロジェクトを打ち出し支援をしていますが、「新たな生活場所を求めるひとり親や、ひとり親家庭の移住を促進する自治体に対する支援」も施策の方向性の中に入っています。
各自治体は仕事や住居確保の支援、助成制度を設けて母子・ひとり親家庭の地方移住を促進しています。
参照:全国ひとり親世帯等調査の結果報告 7 調査時点における親の就労状態
参照:ひとり親家庭・多子世帯等自立応援プロジェクト (施策の方向性)【概要】
母子・ひとり親家庭が地方移住するメリット・デメリット
ここでは、母子・ひとり親家庭が実際に移住することにした場合、どのようなメリット・デメリットがあるかをご紹介していきます。
母子・ひとり親家庭が地方移住するメリット
母子・ひとり親家庭が地方移住するメリットは以下が挙げられます。
- 都市部に比べて家賃や食材費などの生活費用が安い
- 保育園の待機児童が都市部よりは少ない
- 通勤時間が短縮できたり満員電車での通勤がなくなり、心の余裕ができる
- 子どもが自然と触れ合える機会が多い
- 地域が協力して子育てをしてくれる
地方の魅力は、都市部にはない自然の多さや、地域との繋がりです。子どもが少ない地域だと、子どもの声が聞こえるだけで喜んでくれる人もいます。また騒音を気にせず過ごせ、心にゆとりが生まれるのもメリットと言えます。
母子・ひとり親家庭が地方移住するデメリット
次に、母子・ひとり親家庭が地方移住するデメリットです。
- 都心にあるような仕事が少ない
- 交通の便が悪く、車がないと移動が不便
- 移住先によっては地域に馴染めず孤立する
- 近所付き合いが煩わしく思うこともある
- 病院が少ない
また移住して介護職で優遇されたため、支援なしで働く地元のシングルマザーとの間に摩擦が起きたり、仕事が合わず退職をすることになったときには支援が受けられなくなるなどのケースもあるようです。
母子・ひとり親家庭の地方移住促進を積極的に行っている自治体
ここでは母子・ひとり親家庭の地方移住促進を積極的に行っている自治体をご紹介します。どのサポートもそれぞれの条件を満たしていれば受けられるので、ぜひ参考にしてください。
※母子・ひとり親家庭に限らず、子育て・移住に関する支援も盛り込んでいます。
幌加内町(北海道)
北海道幌加内町は蕎麦(そば)の作付面積が日本一の豊かな山々に囲まれた町です。
町が支援対象としている介護サービス事業所へ就職し、定住をする意思があるひとり親家庭が支援対象となります。また中学生以下の子どもがいて、町外から移住する60歳未満の親子が条件となります。
<幌加内町の主な支援>
- 給料月額17万円を保障
- 子どもが満18歳になる年度末まで1世帯につき月3万円の補助
- 月3万円以上の賃貸住宅に住む人へ1/2(上限3万円)の家賃補助
- 幌加内町へ引っ越す費用を1世帯につき20万円の補助
- 就労定住して5年後に50万円、10年後に100万円の奨励金補助
また、幌加内町は子育ての支援があり、町内の保育料は完全無料。中学3年生までの医療費は全額助成、子どもの定期予防接種や生後6か月から中学3年生までのインフルエンザ予防接種も無料で受けることができます。
栗原市(宮城県)
宮城県栗原市は、仙台市まで新幹線で約25分、東京まで新幹線で約2時間と、都心にも出やすい立地です。
<栗原市の主な支援>
- 子どもが満18歳になる年度末まで、親の自己負担分の一部の医療費の助成。子どもの医療費は満18歳になる年度末まで無料。
- 親が教育訓練を受ける際の費用を60%(上限20万円)を給付
- 児童扶養手当を子どもが満18歳になる年度末(20歳未満の障害がある人も含む)まで支給。
- 1歳未満の乳児がいる世帯は、1人につき3万6千円の子育てに必要なおむつや衣類などを買えるチケットを配布
- 幼稚園の給食費が無償、教育時間外の預かり保育も利用可能
- 保育所の保育料が2人目以降無料
- 第3子の小学校入学にかかる経費を上限3万円まで交付
- 任意の予防接種にかかる費用を全額助成。インフルエンザ予防接種も中学生まで対象
参照:栗原市
参照:栗原くらし
須坂市(長野県)
移住受入協力企業が30社ある長野県須坂市によるひとり親家庭への支援は以下の通りです。
<須坂市の主な支援>
- 児童扶養手当を子どもが満18歳になる年度末まで所得に応じた額で年6回支給
- 経済的理由で大学進学が困難な人向けの奨学金あり。1人あたり100万円以内の給付が受けられる
- 「ながの子育て家庭優待パスポート」で割引などの子育て支援サービスが受けられる
- 一時的に子どもを預かってもらえるショートステイがある。保護者が病気などになった際に6泊7日以内の滞在が可能
また、須坂市ではYouTubeで生活環境や情報などに関する情報発信や、移住者の体験談やインタビューなどもたくさん紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
長野県須坂市信州須坂移住支援チーム(YouTube)はこちら
移住者体験談はこちら
参照:スサカでくらす
参照:須坂市 子育て・教育
上野村(群馬県)
上野村は、群馬県で最も自治体人口の少ない山間地域。自然に囲まれた田舎で子育て生活を送りたい方に向いています。
<上野村の主な支援>
- 6か月以上の居住、且つ3人以上の子どもがいる世帯へ、養育手当て・特別養育手当てを支給
- 保育所や小中学校の給食費の免除
- 小中学校へ入学お祝いに3万円支給
- 中学卒業までの子どもの医療費、親の医療費の助成
また、群馬県全体でも以下のようなひとり親家庭への移住支援を行っています。
- 児童扶養手当・児童手当・就学援助の支給
- 中学卒業までの子どもの医療費、親の医療費の助成
- ひとり親同士の交流事業
- 小学生対象の学習支援
- ファミリーサポートの利用額の減額
- 一時的に子どもを預かってもらえるショートステイサービス(一部の市町村を除く)保護者が病気などになった際に利用可能。
- 県営住宅の抽選優先
- JR通勤定期券が3割引
松戸市(千葉県)
日経DUALの「共働き子育てしやすい街ランキング2020」で総合編1位を受賞した千葉県松戸市。「やさシティ、まつど。」をテーマに、子育てをしやすい環境で支援をしています。
<松戸市がコロナ禍で行った取り組み>
- 養育費をもらっていないひとり親世帯へ、子ども1人につき最大6万円の支給を全国初で開始
- 託児付コワーキングスペースの設置
- オンラインで気軽に集える「まつどDE子育てオンライン広場 ・子育てオンライン相談」の実施
「まつどDE子育て」はこちら
<その他のサポート>
- ひとり親家庭へ自立支援プログラムを組んでくれる。支援計画書を相談・面接を経て作成し、支援内容に合わせて調整してくれる
- ひとり親家庭を対象とした教育訓練給付金あり。介護福祉士やキャリアコンサルタント、高等職業教育では看護師や保育士などの資格取得をサポート
- ひとり親家庭の親や子どもが高卒認定試験合格に向け講座を受け、合格の際に受講費用を支給
- 子どもの学習支援事業があり、小学校高学年〜高校生まで学習塾のような指導を週に2回無料で受けられる
伊豆市(静岡県)
伊豆市は「ひとり親サポートコンシェルジュ」という窓口を設けており、移住に関する相談を受けることができます。また、こども園・学校・職場見学などの移住体験ツアーなども積極的に開催しています。
なお、観光業が盛んな伊豆市では旅館・ホテル業の求人が多く、旅館業に就業した場合の補助金も用意されています。
<伊豆市の主な支援>
- 旅館・ホテル業に新規就業するために移住してきた世帯対象に、世帯引っ越し支援補助あり
- 移住・定住促進のための賃貸補助。旅館・ホテル業に新規就業し、市内の賃貸住宅に住む際に交付(月2万円×24ヶ月)
- 子どもの医療費を高校3年生まで助成
- 第3子は0〜2歳児の保育料、3〜5歳児の副食費が無料
- 認可保育所では延長保育・休日保育・病児保育・病児後保育を実施
参照:いずぐらし
掛川市(静岡県)
静岡県掛川市ひとり親支援は、東海地震発生時などの対策や家具転倒防止対策などが盛り込まれているのが特徴的です。
<掛川市の主な支援>
- 家具の転倒防止対策として、建築工業の組合員が訪問して家具を5ヶ所まで無料で固定してくれる
- 保育園の延長保育やファミリーサポートの料金の1/2を助成
- 20歳未満の子どもがいるひとり親が教育訓練を受ける際の費用を60%(上限20万円)を給付
- 子どもが20歳になる前日まで、親子に医療費を助成
- 家具の転倒防止対策として、建築工業の組合員が訪問して家具を5ヶ所まで無料で固定してくれる
- 保育園の延長保育やファミリーサポートの料金の1/2を助成
- 20歳未満の子どもがいるひとり親が教育訓練を受ける際の費用を60%(上限20万円)を給付
- 子どもが20歳になる前日まで、親子に医療費を助成
- 児童扶養手当あり
神河町(兵庫県)
令和2年12月末で20世帯59人が移住しており、年々移住者が増加傾向にある兵庫県神河町。保育士・介護職へ就職を希望する方へのサポートも積極的に行われています。
<移住前のサポート>
- 短期宿泊が可能な無料体験施設や、町内の見学ツアーがある
- 移住者の移住プランナーによる相談を受けられる
<移住後のサポート>
- シングルマザー移住者の交流会がある
- シングルマザー移住支援拠点のサテライトオフィスがあり、職業訓練も提供
- 神河町への引っ越し費用の補助。対象経費の1/2で最大5万円、満20〜満40歳未満の女性世帯は最大10万円の補助あり
- 保育料第1子無料、第2子以降は無料になる
- 学童保育の利用料金が月額3千円
- 月4万円を超える家賃に対し最大2万円の補助
- 子どもは高校卒業まで医療費無料
上記以外にも様々な子育て支援プランがあります。
参照:かみかわくらす
浜田市(島根県)
県内随一の漁獲量を誇る漁港のある島根県浜田市でも移住前のサポートが充実しています。
<移住相談などの住む前のサポート>
- 1家族上限2万円、1人1泊2千円の宿泊費補助
- (公財)ふるさと島根定住財団から交通費片道上限2万円の補助
- 萩・石見空港を利用した場合、片道3千円の助成あり
- 移住後の暮らしをイメージできるよう、12の企業がインターンシップを受け入れ
- 浜田市での暮らしや実際に移住した人・地域の人と交流できる体験ツアー
<移住後のサポート>
- 乳幼児から高校生まで医療費の助成が受けられる
- 18歳まで前年の所得額に応じて児童扶養手当あり。また受給世帯はJR通勤定期の割引制度も利用可能
- 一時的に子どもを預かってくれるファミリーサポートセンターの利用料が半額
- 浜田市立の小・中学校に入学予定の子どもがいる保護者へ、学用品費の入学前支給あり
- 放課後児童クラブの負担金減免制度があり、2人目からは無料
- 求職中のひとり親家庭の父・母のための就業支援
- 経済的自立の支援を目的とした、低利子もしくは無利子の貸付制度あり
参照:島根県浜田市 ひとり親家庭の移住支援に取り組んでいます(ひとり親地方移住支援ネットワーク会議)
大分市(大分県)
大分は女性の育児ストレスが少ない都道府県第1位にも選ばれており、子どものいる世帯の移住先としても暮らしやすいと言えます。
<大分市の主な移住支援>
- 子どもが満18歳になる年度末まで児童扶養手当があり
- 子どもが満18歳になる年度末まで親子いずれにも医療費の助成あり
- 満3歳まで使用できる「おおいた子育てほっとクーポン」を配布。一時預かりなどのファミリーサポートや絵本購入などに使用可能
- 3歳未満の子どもの認可保育園の保育料は、第2子以降は全額上限なく助成
参照:おおいた暮らし
最後に
平成28年度全国ひとり世帯調査結果報告では、ひとり親家庭で困っていることは母子・父子家庭いずれも「家計」と「仕事」が50%以上を占めているという結果が出ています。
各自治体では母子・ひとり親家庭に対して様々な支援をしていますが、知り合いもいない土地へ移住するのはやはり不安なもの。移住を検討されている方は、なるべく手厚いサポートを受けられる場所を見つけていただければと思います。
今後もWEELSではひとり親家庭にとって役に立つ情報を発信していきたいと思います。
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インテリアスタイリングやファブリックの仕事を経て、結婚を機に都会から田舎暮らしへ。今は山暮らしをしながら3姉妹の子育て中。趣味はお菓子作り。