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持続可能な観光とは。Withコロナ時代に考える未来のツーリズム

世界全体で見たときに、労働人口の10人に1人が観光業界で働いていると言われています。2020年には、観光業が世界の総GDPのおよそ10%を占めていると、世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)が発表しました。

それだけ経済的インパクトの大きい観光・旅行業は今、コロナウイルスの流行により大きな打撃を受けています。今まで人で溢れかえっていた観光地の、がらんとした寂しい光景は今まで見たことがないという方も多いでしょう。

と同時に、これまで指摘されてきた数々の観光に関する問題点がさらに浮き彫りになりました。ポジティブに捉えれば、これからの観光のあり方を考え直すきっかけになったとも言えます。

転換期を迎えているツーリズム。今回は、持続可能な未来の観光のあり方について考えます。

オーバーツーリズムの問題点

オーバーツーリズムの問題点

持続可能な観光を阻む要因として問題視されているのが、観光公害とも呼ばれるオーバーツーリズム。許容できる数以上の観光客が訪れることで、様々な弊害が引き起こされています。

例えばゴミの量が増加することで、少なからず環境汚染に繋がる恐れがあります。また観光スポットが混雑することで本来の美しい景色を楽しめなかったり、そのような状況が観光客同士のトラブルを招くケースもあります。

観光客を狙った悪徳商法や違法ギャンブルなどの横行も起きています。治安の悪化に繋がり、地域住民の暮らしを脅かすような事件が起きてしまう可能性も大いにあります。

加えて、ホテルやショッピング施設などの過度な開発による自然破壊や、電車・バスといった交通機関の混雑など、オーバーツーリズムによってあらゆる問題が起きているというのが現状です。

確かに、人が訪れれば訪れるほどその経済効果は大きくなります。多くのお金が落とされ、多くの雇用が生まれるのは間違いありません。しかし、これらのようなことが続いていけば、次第に観光地の美しさや魅力は失われてしまうでしょう。

結果的に人々が訪れなくなるだけでなく、廃業・失業の増加という問題が出てくる可能性のあるオーバーツーリズム。持続可能な観光をつくっていくためにも、本来のツーリズムの姿を見つめ直す必要があるのです。

海外のオーバーツーリズム

海外のオーバーツーリズム

LCC(ローコストキャリア)と呼ばれる格安航空会社や、Airbnb(エアービーアンドビー)といった民泊予約サイトの台頭により、海外旅行はますます身近なものになってきています。

一方、海の向こうではオーバーツーリズムの弊害に喘いでいる観光地が多くあります。

イタリアのベネチアの人口は5万人程度なのに対し、多いときで1日10万人以上、年間2000万人以上の観光客が訪れます。あらゆる場所での混雑や騒音問題が起きていたり、運河を泳ぐといった行為をする観光客も。物価の高騰が理由で人口がどんどん減少しているという弊害も出ています。

こちらの記事もチェック:イタリア・ヴェネツィアの観光公害に住民が疲弊。現状とオーバーツーリズム解消への取り組み

同じヨーロッパだと、スペインのバルセロナや、オランダのアムステルダムもオーバーツーリズムな状態が続いています。イタリアのベネチア同様、人口に対してあまりにも多い観光客が訪れており、道路の渋滞や治安の悪化など、あらゆることが問題化しています。

また日本から比較的近いフィリピンの観光公害も深刻です。美しい海やビーチでのリゾートが人気のボラカイ島は、その島のサイズやインフラ設備に対してホテルや観光客が多すぎる状態。水質汚染やサンゴ礁の破壊に繋がっているという問題なども指摘され、2018年4月から10月まで島ごと閉鎖しなければならない事態にまでなりました。

同じく東南アジアのバリ島(インドネシア)では、2017年には1300万人以上の人たちが海外から訪れるほどの人気ぶり。島のサイズに対して明らかにオーバーツーリズムな状態になっており、交通渋滞や大気汚染、騒音、治安悪化など様々な問題が起きています。

日本のオーバーツーリズム

日本のオーバーツーリズム

日本にもオーバーツーリズムが深刻な問題となっている観光地は多くあります。

例えば、国内外から毎年多くの人が訪れる京都。2019年には5000万人以上の観光客数を記録しましたが、市民の足でもあるバスの混雑により人々の日常生活に影響が出ています。歴史的文化財・名所では混雑だけでなく、落書き・器物破損といった事件も起きてしまいました。

人気の観光地の1つである鎌倉でも、江ノ電の混雑や観光客増加によって起きる喧騒が地元住民の不満となっています。また、沖縄の宮古島ではリゾート開発による自然破壊、アパートの部屋不足、家賃高騰という問題が明るみになり、沖縄県の調査(*1)によると京都地区の住民の約72%がオーバーツーリズムだと感じているという結果が出ています。

1*:72%がオーバーツーリズム感じる

コロナ流行がこれからの観光を考えるきっかけに

コロナ流行がこれからの観光を考えるきっかけに

コロナウイルス感染症の流行が始まる前までの日本の観光業は好調で、ずっと右肩上がりの成長を見せていました。JNTO(日本政府観光局)の調査によると、2019年には年間の訪日外国人数は3188万2100人と、過去最多を記録していました。

しかし、日に日に感染者数が増加しているのを受け、日本政府は国民に対して県をまたぐ移動の自粛を要請。多くの人たちがなるべく自宅や人ごみにならない場所で過ごし、旅行に出かける人たちは大きく減りました。

Go To トラベルキャンペーンによって一時的に旅行者は増えたものの、同時に感染者数も増えて二度目の緊急事態宣言発令という結果となってしまいました。

また、各国が国境を閉じたり海外への渡航を禁じたりした結果、今まで混雑して賑わっていた世界中のあらゆる観光地でもポツポツとしか人が見られないという現象が起きています。このように、コロナの影響で世界的に観光業は大きな経済的ダメージを被ることになりました。

もちろん観光業の仕事をしていて生活が苦しい人たちも多くいると思いますが、一方でコロナの流行が持続可能な観光を見直すきっかけになっているとも言えます。

例えば、過剰な数の観光客が来なくなったことでゴミの量も大きく減り、街がきれいになったり自然への負担が減るといったメリットが見え始めています。人が群がっていたゴミだらけのビーチを掃除する時間ができたり、今まで現れなかった魚が見れるようになったというケースもあります。

道路や交通機関の混雑、騒音などが緩和されることで市民の暮らしが快適になり、人の密集により景観を損ねていたスポットも本来の美しさを取り戻しつつあります。

さらに、このコロナ禍を機に「密集・密接」を警戒する人たちが増えたため、人がたくさん集まるような観光地は避けたいと考える人も少なくないでしょう。そうなると、これまでの「数」を重視したオーバーツーリズムを招く観光はいずれ限界が来ると考えられます。

観光そのものは続いていくものであり、これからも観光を通して様々な歴史・文化・価値観に触れたり、単純に楽しみたいと思っている人たちはたくさんいるでしょう。だからこそ今、持続可能な観光とは何かを考えることがとても重要なのではないでしょうか。

持続可能な観光とは

持続可能な観光とは

国連世界観光機関(UNWTO)では、「観光客、観光業界、環境および観光客を迎え入れるコミュニティのニーズに応えながら、現在/未来の経済・社会・環境に及ぼす影響を十分に考慮する観光」を持続可能な観光と定義しています。

経済面で言えば、観光客を受け入れるコミュニティー内に長期的な雇用が生まれ、安定した収入をもたらす仕組みを構築。その土地に暮らす人々が社会サービスを受けられるよう公平な利益分配を行い、発展や貧困解消への貢献が重要だとしています。

社会面においては、その土地に根付く文化への理解・敬意を示しながら、建築文化遺産やその土地伝統的な価値観を守っていくことが大切です。

また、環境面においては自然遺産や生物多様性の保全を重視。観光地が持つ本来の美しさを保ちながら、今ある環境資源を最適な方法で活用していくべきだとしています。

これらのことを総合的に考慮し、関わる人間・環境資源・自然の全てに寄り添うことで、持続可能な観光を推進していくことを目標としています。

「数」から「質」を重視した観光へ

「数」から「質」を重視した観光へ

これまでの「数」を重視した観光業が崩れつつある今、これからの持続可能な観光をつくっていくためには「質」を重視した観光にシフトしていく必要があると言えます。

例えば、1人あたりの観光地に落とすお金が大きくなるような施策を行うことで、オーバーツーリズムの解消が見込めます。10人がそれぞれ1回に1,000円を落とすのと、1人が1回に10,000円を落とすのでは、利益は同じですが地域・環境への負担は1/10となります。

また、ただ観光地を消費して終わりではなく、受け入れ側のコミュニティーと観光客が関係を築き、ファン・リピーターを創出していくことも質への転換の1つ。再び訪れてくれる人たちを増やすことで、雇用・収入の安定化にも繋がります。

質を重視した観光を目指すことでその土地の美しさを取り戻し、行ってみたい・また訪れたいと心から思えるような観光地をつくる。このような意識がこれからの観光を持続可能なものにしていく上で必要不可欠であり、世界全体に広めていくことがますます重要となってくるでしょう。

こちらの記事もチェック:資本主義の限界?数や量から「質」へのシフトを迫られる社会

持続可能な観光への取り組み

持続可能な観光をつくっていくために、世界ではあらゆる取り組みが行われています。ここではその中の一例として、コスタリカ共和国・パラオ共和国・アイスランドで行われている取り組みを紹介します。

コスタリカ共和国

コスタリカ共和国

中央アメリカのコスタリカ共和国は、国土のおよそ1/4が熱帯雨林。青い海と白い砂浜が広がるカリブ海と太平洋の海岸沿いは大きな観光地となっています。

そんな美しい自然を守りながら環境に優しい観光をつくるため、国の電力の98%以上を再生エネルギーで供給。河川・風力・地熱エネルギーが主な発電源となっており、化石燃料発電所は使用されていません。

これにより二酸化炭素排出量の大幅な削減に貢献しており、最も持続可能な国々の1つになりつつあります。

パラオ共和国

パラオ共和国

太平洋に浮かぶミクロネシアにあり、ダイビングやリゾート観光地として人気のパラオ共和国。青く美しい海を守るために、様々な取り組みが行われています。

まず、パラオに入国する観光客は「パラオ誓約書(Palau pledge)」というものに署名をする必要があります。

参照:駐日パラオ共和国大使館 – パラオ・プレッジ(誓約)導入について –

また、パラオでは2020年1月からサンゴ礁に有害な物質を含む日焼け止めの販売や持ち込みを禁止。違反した場合、1,000USドルの罰金が課されると法律で定められています。(詳細:サンゴ礁に有害な成分を含む日焼け止めの禁止について

さらに外交関係の問題上、2018年にパラオ・パシフィック航空が中国便を廃止しました。それまでの観光客の約半数が中国人だったため、観光客数は大きく減少。観光業に大きな影響が出ましたが、従来のローエンドなパッケージ型から、1人単価の高いニッチでハイエンドな観光を推進していくきっかけともなりました。

アイスランド

アイスランド

環境先進国と呼ばれるアイスランドも、毎年多くの観光客が訪れる人気の観光地。そんなアイスランドではほぼ100%の電力を水力や地熱を発電源とした再生エネルギーで供給しています。

また地熱エネルギーは温水プールや温泉、暖房、融雪、食物栽培など、幅広い用途にも活用。地熱の力で温められた温水はほとんどの家庭に供給されており、国民生活のインフラの一部として重要な役割も担っています。

この取り組みにより、国内の温室効果ガス削減に大きく貢献。環境に優しいエネルギーにより自然を守り、その美しい姿を持続させることがサステナブルな観光へ繋がっていると言えます。

最後に

いかがでしたでしょうか?オーバーツーリズムはそれぞれの国だけでなく、観光を楽しむ私たち一人ひとりにも関わる問題となってきました。今回の記事で、これからもずっと楽しい観光であり続けるために、持続可能な観光とは何かを考えるきっかけになったら幸いです。

こちらの記事もチェック:インバウンド需要が蒸発した日本の観光業のこれからを考える〜サステナブルへの転換期を迎える今〜

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