機器からペットボトル、スーパーの袋、デリバリー・テイクアウトの容器まで、私たちの生活にはなくてはならないプラスチック。そんな普段使っているプラスチックがゴミとなって海洋に流れこむ「海洋プラスチックごみ問題」が深刻化しています。テレビなどで海面を漂う大量のプラスチックごみの映像を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
実はきちんと分別していても、プラスチックごみはさまざまな理由によって陸上から海上に流れ出しています。ゴミは長期にわたって海洋に残存し、環境や私たちの健康にあらゆる悪影響を及ぼす懸念もあります。
本記事では、海洋プラスチックごみ問題とは何なのか、解決に向けてどんなことが行われているのか、私たち一人ひとりに何ができるのかについて解説していきたいと思います。
海洋プラスチックごみ問題とは
プラスチックが生まれる以前は、紙・木・竹・藁(わら)・木綿・麻といった植物や、陶器・磁器、石・鉱物など、自然由来の材料から生活に必要なものをつくっていました。
プラスチックが開発されたのは今からおよそ100年前。「軽くて加工しやすく、頑丈で製造コストも安い」というメリットが理由にどんどん開発が進み、自然由来の材料にとってかわる存在となりました。
人口の増加と経済の発展をうけて、全世界のプラスチック生産量はますます増加。1950年代では200万トンだった生産量が、25年後の1975年には25倍の5,000万トンへ、そこから40年後の2015年にはなんと76,000倍の3億8,000万トンが全世界で生産されるまでになりました。(*1)
生産されてずっと使われるならまだしも、プラスチックはいつかゴミとなって廃棄されます。しかし、廃棄されているプラスチックのうち、リサイクル率は全体のたった9%。またゴミとして回収されたプラスチックの79%が埋立または海へ投棄されているという実態がわかっています。(*2)
このままの廃棄量・リサイクル率のペースでいくと、海が近い将来プラスチックごみだらけになってしまい、水質汚染や海の生態系に大きく影響を及ぼしてしまう可能性があります。
*1:Improving Markets for Recycled Plastics
日本の1人当たりのプラスチック包装ごみ廃棄量は世界で2位
世界のプラスチックごみのうち約半分の47%がプラスチック包装ごみであり、アジアからの発生がその約半分を占めているというデータがあります。人口の多い中国が最も廃棄量が多いことは想像できると思いますが、実は国民1人当たりだと1位がアメリカ、2位が日本となっています。
国連環境計画(UNEP)のデータによると、日本人が年間で出すプラスチック包装ごみの量は1人当たり約35kgとのこと。1人当たり約50kgのアメリカと比較すればまだ少ないですが、世界全体で見ると私たち日本人はかなりの量のプラスチック包装ごみを出していることがわかります。
参照:SINGLE-USE PLASTICS – UNEP-
海に流れ出すプラスチック
海洋プラスチックごみの80%は陸上から出ていると言われています。
プラスチックごみを出す際は基本的に分別されており、確かにリサイクルや焼却、埋立されています。一方、不法投棄やポイ捨てなどにより放置されているごみもたくさんあるというのが現実。そうしたゴミが風に飛ばされ、雨に流され、河川から海へとたどり着きます。
さらに、世界中には、まだごみ分別システムが確立していない国々もあり、処理が適切にされないごみはやはり河川などを通じて海に流出していると推定されています。
魚よりもプラスチックごみが海に溢れる未来
世界経済フォーラム(WEF)のデータ(*3)によると、毎年少なくとも年間800万トンのプラスチックごみが世界中の海に流出。1分に1台のごみ収集車分のプラスチックが海に捨てられているのと同じくらいの量の計算になります。
もし世界中の人びとがこのままの生産・消費・廃棄活動を続けた場合、2030年までに1分あたりごみ収集車2台分、2050年までに1分あたりゴミ収集車4台分にまで増加すると予想されています。
またプラスチックの生産量が毎年5%増加し、生産量の3%が海に流出すると仮定すると、2050年には海のすべての魚よりもプラスチックの量が上回ってしまうと言われています。
*3:The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics
海洋プラスチックごみが環境に及ぼす影響
海洋や海岸のプラスチックごみは、以下のように環境や私たちの暮らしにも大きな影響を与えています。
海洋環境:ゴミによる水質汚染や、誤飲や毒性による海洋生態系の悪化。
船舶運航:プラスチックごみが密集するごみベルト地帯では船舶の運航に支障。
漁業:海洋環境の悪化による漁獲高の減少。
観光:海洋資源が観光資源の国々にとって、水質・沿岸景観の悪化が観光収入の減少に直結。
沿岸居住環境:沿岸地域の住人だけでは、漂着ごみの解決は困難。
目に見えるプラスチックごみだけでもこれらのような影響がありますが、さらにここ数年問題になってきているのが「マイクロプラスチック問題」です。
マイクロプラスチックとは
海洋プラスチックごみには、目視できる大きなものもあれば、目に見えない粒子状のものもあります。
プラスチックは丈夫で長持ちする性質があるため、分解されるまでに長い時間がかかります。また分解されてもなくなるわけではなく、自然にも帰りません。
このような粒子状になって残ってしまうプラスチックごみは「マイクロプラスチック」と呼ばれ、近年はマイクロプラスチックが生態系に与える影響がより問題視されてきています。
マイクロプラスチックの種類
マイクロプラスチックは以下の2種類に分類されます。
①一次マイクロプラスチック
微小なサイズで製造されたプラスチック。洗顔料・歯磨き粉等のスクラブ剤等に利用されているマイクロビーズやペレットなど。排水溝などを通じて自然環境の中に流れ出て、一旦環境中に放出されるとその回収は非常に難しい。
②二次マイクロプラスチック
大きなサイズで製造されたプラスチックが紫外線や風、波などの自然環境にさらられることで破砕(はさい)・細分化されてマイクロサイズになったもの。マイクロ化する前に回収等の対策をすることで、拡散の防止は可能。
なぜマイクロプラスチックが問題なのか
マイクロプラスチックの問題は、マイクロプラスチックそのものと、それが持つ性質とに分かれます。
マイクロプラスチックそのものの問題としては、微小であるために簡単に生物の中に取り込まれるということ。性質の問題としては、プラスチックに添加されている、またはプラスチックが吸着した成分が生物の中に取り込まれたり、海水内に流出したりすることです。
魚、海鳥、ウミガメなど、多くの生物の生体内でマイクロプラスチックが発見されており、誤食という直接的被害、化学成分の毒性という間接的被害で生態系に影響を与えています。
また、そのような魚を食べたり飲料水を飲むことによって、私たち人間の体内にもマイクロプラスチックが蓄積されていっていると考えられます。
海洋プラスチックごみ問題解決への取り組み
深刻化する海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、国内外で政府や企業によるさまざまな取り組みが行われています。
世界の取り組み
SDGsのターゲットの1つとしてゴール14に「海の豊かさを守ろう」が掲げられており、14.1で「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」と言及されています。
G7での「海洋プラスチック憲章」の承認(2018年)
カナダで行われたG7首脳会談で、プラスチックが経済及び日々の生活での重要な役割を果たす一方で、海洋環境、生活及び潜在的に人間の健康に重大な脅威になっているとの認識が共有されました。
そして、日本とアメリカを除くカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス及びEUは「海洋プラスチック憲章」を承認。下記の期限付き目標を設定し、プラスチックごみに対する先進国の取り組みが一気に拡大しました。
• 2030年までに100%のプラスチックが再使用・リサイクル可能、または実行可能な代替品が存在しない場合には、熱回収可能となるよう産業界と協力する
• 2030年までにプラスチック製品においてリサイクル素材の使用を少なくとも50%増加させるべく産業界と協力する
• 2030年までにプラスチック包装の最低55%をリサイクル又は再使用し、2040年までには全てのプラスチックを熱回収含め100%有効利用するよう産業界及び政府と協力する。
G20大阪首脳宣言(2019年)
2018年の「海洋プラスチック憲章」への署名を見送った日本政府でしたが、2019年に大阪で開催されたG20では主催国として海洋プラスチックごみ問題を主要議題の一つとして取り上げました。
参加国は共通の世界のビジョンとして「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(*4)」を共有。2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指すことで合意しています。
*4:Towards Osaka Blue Ocean Vision – G20 Implementation Framework for Actions on Marine Plastic Litter
日本の取り組み
PLASTIC SMARTキャンペーン
環境省では、海洋プラスチック問題の解決に向けての個人・自治体・NGO・企業・研究機関などの取り組みを後押しするため、2018年10月に「プラスチック・スマート-for Sustainable Ocean-」と銘打ったキャンペーンを立ち上げました。
プラスチック・スマートのサイト(*5)では問題を身近に感じながら行動できるよう、海洋プラスチックごみ問題への知識を深める情報や、プラスチックを減らす様々な取り組みなどを紹介しています。
*5:プラスチック・スマート
脱プラスチック戦略推進基本法
「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク」のメンバー及び賛同23団体は、2021年2月に独自の法案である「脱プラスチック戦略推進基本法(案)」を環境副大臣に提出しました。
これは、政府が国会で成立を目指す「プラスチック資源循環促進法案」では、海洋プラスチックごみの中で大きな割合を占めているプラスチック包装の削減の根本的解決には至っておらず、プラスチックの環境への悪影響を解消するには不十分だとする見解が基になっています。
基本法(案)では、2030年までに自然環境へのプラスチック流出ゼロ・使い捨てプラスチック使用の原則ゼロを実現し、2050年までにバージンプラスチックに依存しない社会を築くための戦略を推進するよう策定しており、これを政策に反映させるよう政府に働き続けていくとのことです。
プラスチック資源循環促進法案
2021年3月9日、政府は「プラスチック資源循環促進法案」を閣議決定しました。
これは、プラスチックのライフサイクル全般における「3R(リデュース削減・リユース再利用・リサイクル再循環)」を促進することにより、プラスチック循環経済への移行を加速させようというものです。
主なポイントは以下になります。
①製造・設計段階
プラスチック製品の設計を環境に配慮したものに転換。可能な限り代替素材を利用し、使用するプラスチック量を削減・解体しやすい製造設計にする。
②販売・提供段階
使い捨てプラスチック(スプーンやフォーク、ストローなど)の提供を減らし、消費者のライフスタイルの変革を促す。
③排出・回収・リサイクル段階
あらゆるプラスチックの効率的な回収・リサイクルを促進する仕組みを策定。
参考2:プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案の閣議決定について
企業の取り組み
2018年1月、循環経済を推進するエレン・マッカーサー財団はダボスで開催された世界経済フォーラムで、2025年までに100%再利用・リサイクル可能、または堆肥化可能なパッケージの使用に取り組んでいるグローバル企業11社を発表しました。
この11社には、エビアンやロレアル、ペプシ、コカ・コーラといった、私たちの生活に馴染みのある企業が含まれています。
他の大手ブランドや小売業者、包装会社などもこの流れに追随(ついづい)しています。例えば、マクドナルドも全パッケージ素材を2025年までに再利用・再生素材・FSC認証(*6)素材に切り替えるとともに、2025年までに店舗内パッケージ(コップ、持ち帰り用バッグ、ラップ、ナプキン等)を100%リサイクルすると発表しています。
6*:FSC認証
FSC(森林管理協議会)が適切な管理がされていると判断できる森林から収穫した木材、またはFSCが認める原料でつくられた木・紙製品に与られる認証。
私たちにできること
世界規模で国や行政、企業、団体などが取り組む海洋プラスチックごみ問題ですが、私たち一人ひとりも以下のような意識を持って行動することでこの問題解決に貢献することができます。
Reduce : ごみを減らす
不必要な使い捨てプラスチックの利用を避け、プラスチックごみを出さないようにする。ごみのポイ捨てを避け、ゴミ拾い活動に積極的に参加する。
Reuse : 何度も使う
マイボトル、マイバックを積極的に利用。洗剤やシャンプーは詰め替え用を購入する。
Recycle : 使えなくなったものは資源にもどす
家庭ごみはより効率的にリサイクルするために、各地方自治体の指示する方法で分別。再生プラスチック製品を選んで購入する。
とても基本的でわかりきったようなことですが、意識して生活するのとそうでないのでは一人ひとりのプラスチック廃棄量もかなり変わってくるでしょう。少しでも多くの人たちがこの問題に関心を持ち、改めてプラスチックごみについて見直してもらえたら幸いです。
最後に
私たちが暮らす世界でプラスチックはまだまだ重要な役割を果たしており、プラスチックを一気に無くすという方向に進むことは非現実的です。しかし、あらゆる取り組みや個人の心がけを変えていくことで、海の美しさや人々の健康を守ることに繋がるでしょう。
WEELSでは今後も海洋プラスチックごみ問題について発信し続けていきたいと思います。
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海外在住、潜って踊れるママさんライター。趣味は雑学収集で、得た知識をライティングに反映するWin-Winな循環が理想。