離婚したら、その後2人はどうするでしょう。きっと、別々に暮らすのが「普通」だと思います。
しかし、YoutubeでNyamzuとして情報を発信するゆっこさんとローラさんは、離婚をした後でも仲良く2人で生活を続けています。離婚のきっかけは、ローラさんがトランスジェンダーだと発覚したことでした。
性自認が女性であるNyamzuのお2人。様々な「普通」と葛藤しながら生きてきたお2人。
世間のいわゆる「普通」は、2人にはどう感じられているのでしょうか。また、どのような「普通」が世間に広がってほしいと思っているのでしょうか。
今回は、ジェンダーについて発信を行うNyamzuの2人に「普通」についてどう考えているかをインタビューしました。
2人の今までの歩み
ー 2人の出会いを教えてください。
ゆっこさん:私が大学生の頃、留学先のイギリスでローラと出会いました。私のイギリス留学が終わった後、今度はローラが日本に留学に来ることになり、そこからお付き合いが始まりました。
その後、ローラが日本で就職し、そして私たちは結婚することに。いわゆる「普通」の夫婦として、日々は過ぎていきました。
結婚生活が2、3年経った頃、ローラがトランスジェンダーだと発覚したことで、性別を女性に変更しました。現在の日本の制度では同性婚は不可能なので、私たちは離婚することを選択しました。
しかし、お互いをお互いのやりたいことを応援したい気持ちは変わらなかったため、離婚してからも一緒に生活をしています。
「普通」ではないからこそのチャンス
2人の歩んできた経験に興味をもった周りの人たちは、2人のことをもっと共有してほしいと求めました。
それが、ジェンダーについて発信することに繋がります。
ージェンダーについて発信をし始めた時、どんな気持ちだったのでしょうか?
ローラさん:私たちの当たり前は、周りの人たちにとっては新鮮で、新しい価値観を知ってもらうチャンスをつくれるんじゃないかなと思っていました。
ゆっこさん:ローラは自己肯定感がとても高くて!(笑)最初は離婚したことを世間に公表することや、Youtubeで動画を配信することに、とても抵抗感がありました。今でも、ローラがいなければ私1人では絶対にやってないと思います。
ー自分たちの経験を発信するのに抵抗があったのに、実際に始めることになったきっかけは何だったのでしょうか?
ゆっこさん:少しずつ気持ちが変わっていったのは、2人で参加していた心理学を学ぶセミナーでした。そのセミナーの参加者の方々は、私たちにすごく興味をもってくれていました。そして、自分たちの経験を参加者の人たちへ話す機会を得ました。
「2人の話は、多くの人に勇気を与えるよ」とか「こういう考え方もあるんだね」、「私も2人と同じように思うよ」という言葉をもらったときに、周りの人たちから後ろ指を指されるかもしれないという自分の考えが、自分の思いこみでしかなかったことに気づきました。
ローラさん:私たちの経験はあまり聞かないと思うので、より多くの人たちに発信が届いたらいいなと思います。世界を目指すくらいの規模でやりたいです!
いわゆる「普通」から離れてみる
ー2人にとって「普通」とはどのようなものだと考えていますか?
ゆっこさん:私は自分のことを、「何をしたいかわからない人」だと思っています。また、優等生の良い子ちゃんであろうとしていた自分だったので、「普通」に生きていくことはある意味心の拠り所でした。だから、離婚することは人生であってはいけないという気持ちと、結婚し子育てする「普通」の生活をしたいという気持ちをもっていました。
ローラさん:もともと小さいころから、「普通」でいることには抵抗がありました。やりたくもない仕事を生活のためにしながら、たまにある休日で自分の好きなことをして生きていく。私の周りでは、それが「普通」でした。「普通」でいることは我慢することであり、我慢を強いられることはどうにも受け入れられないものでした。
また、自分がやりたいことをやっている方が、社会では目立つし、自分自身を表現するチャンスが増えて自由に生きられるのではないかと思っています。だから、「人生は普通こういうもの」と決めつけて妥協して生きていくことは、もうできないと考えるようになりました。
自分がトランスジェンダーであることを自覚した後、今まで以上に「普通」を押し付けることや押し付けられることに敏感になったように思います。自分のやりたいことを実現し、自分がしたい方法で自己表現をするなど、オリジナルの幸せを追求して生きていくしかなかった自分だったのかなと今は思います。
ー「普通」から距離をとるローラさんと過ごしていて、変わったところはありますか?
ゆっこさん:きっと「普通」に対してのイメージは2人とも似ているのだと思います。ですが、そこから派生する反応や考えが違う方向を向いているなと感じています。
ローラは、具体的にやりたいことがある人だから、それを制限されることが我慢することにつながるのかなと。一方、私の場合はやりたいことが分からない人だったから、制限されないと生きていけないと思っていました。
いわゆる「普通」から離れ、自分のやりたいことを実現するローラと過ごす日々は、本当に冒険のような毎日です。(笑)
こんな「普通」が広がってほしい
ーこれから、どんな「普通」が広がって欲しいと思っていますか。
ゆっこさん:「普通=みんながそれぞれ持っている価値観」だと考えられるような社会だったらいいかなと思います。
それは、「私は〇〇が普通だと思っている」「彼女は△△が普通だと思っている」というような、それぞれの価値観の違いがあることを「普通」だと認識できる社会のことです。
結婚した後子どもを育てて、そして老いていくような生き方だけでなく、それ以外の道を選んで生きている人も意外といることに、自分の経験を発信していく中で気づきました。
日常生活の中でも、それぞれの価値観が知り合えるような関係性が生まれる社会であればいいなと思います。
ローラさん:「みんなが普通だと思うものを疑うこと=普通」になるような社会であったらいいということかなと思います。
世の中では、「普通」を周りに押し付け、根本にある問題を考えないようにしているのではないかと感じています。
「普通」を疑えれば、社会のいろいろなことが変わってくるんじゃないでしょうか。
ゆっこさん:今まで自分がもっていた「普通」を疑い、変化させていくことは大切であるとは思いますが、難しいことであるとも思います。
自分にはどのような背景や経験があって、今の考え方をしているのかを知ることが、新しい「普通」をつくる入り口なのかなと思います。自分のことを知らなければ、自分が考える「普通」を無意識に人に押し付けてしまうのではないでしょうか。
ローラさん:私から、「普通」を押し付けることは絶対にしないようにしています。最近は、「普通」という言葉を使うだけで、ハッとした気持ちになります。(笑)
グアテマラでの2年間のボランティア活動や学校現場での経験を経て、現在は気候変動問題に取り組む。週に1回マイバリカンでセルフカットするサステナブルBOZU。