2022年5月の公演が終了し、Model Productionこと東京学生英語劇連盟(以下MPと記載)は56年目の活動を終えました。57年目に向けて活動を継続していくには、公演の仕切り役となる学生プロデューサーと100名ほどの多様な学生メンバーの応募が必須です。
毎回メンバーが入れ替わる中、MPの英語劇が50年以上続いているのはなぜなのでしょうか。そこには、持続可能な社会づくりに必要な能力や態度を養う環境設計の秘訣がありました。
2年連続でMPの公演に関わった矢嶋夏帆さんに、MPが50年以上続く理由を聞いてみました。
MPとは変革を生むModelを学ぶ場所
MPの活動は、ゴールデンウィークの公演に向け、2月から毎年始まります。プロのサポートの下、大学生約100名が役者や舞台制作など、それぞれ役割を担い英語劇をつくります。
プロのサポートはありますが、100名の学生を束ねる学生プロデューサーを中心に、公演の演目決めから広報まですべて学生主体で実行します。学生プロデューサーは、通常前回の参加者から立候補で決めます。
参加したそれぞれの学生が、舞台を作り上げる主体として参加するため、意見交換は自ずと増えます。そのように意見交換するうちに、矢嶋さんは自分の考えが、視野の狭いものだったことに気づきました。
「自分の考えが変わった一番の理由は、同じセリフでも人によって解釈が違うことを本当に実感したからです。キャラクターの背景や各シーンの捉え方はいくつもあって、1つの考えにこだわってはいけないと感じました」
1人1人が本当に良いものを生み出そうと、変化し続けます。そんなメンバーが集まった集団は、より良い舞台に向かって変革を生み出していきます。そのことを実体験できるのが、MPの場なのでした。
MPは「役者=Model」の育成よりも、「変化に対応でき、変革を生む人材=Model」の育成に重きを置き活動しています。
最高の公演実現の肝をいかに分かち合うか
意見交換の場が増えると多様な考えが出てくる一方で、時には衝突することもあります。何もかも上手くいくことばかりではありません。様々な衝突を乗り越える秘訣は、MPのどこにあるのでしょうか。
コロナ感染拡大に伴う延期により、矢嶋さんも「本当に開催できるのか不安だった」と語った2021年の公演。
様々な困難を乗り越え、2021年に得たものを次に引き継ぎたい。そう考えた矢嶋さんは、2022年の学生プロデューサーになる決断をしました。
2022年の公演に向けた準備中、メンバー同士が衝突し、仲を取り持つため仲介することが多くありました。その度に、なぜ衝突するのかを矢嶋さんは考えました。そして矢嶋さんは、自分の役割以外の準備内容や重要性が理解できていないことが、衝突の原因だと気づきます。
「どの人もどの役割も大切で、1つでも欠けたら最高の公演は実現できない」
それは、2021年に学んだ、最高の公演実現の肝でした。そのことに気づいた後、矢嶋さんの行動は変わっていきます。
「誰かの心ない一言を聞くたびに、その分担の準備内容を説明し、なぜこの役割が重要なのかを話しました。さらには、その人の頑張り、良い部分を見つけて、自分から感謝を伝えるようにしました」
矢嶋さん1人が「最高の公演実現の肝」を知っていてもうまくはいきません。他の人にも「最高の公演実現の肝」を理解してもらうため、丁寧に説明を繰り返しました。
それだけに留まらず、矢嶋さん自身が率先して意見交換し、相手への理解を深め、誰かの頑張りを褒めるようになっていきました。
最高の公演=最高のカーテンコール
矢嶋さんは、2021年のMP参加を通じて「最高の公演実現の肝」を知りました。2022年の活動時には、それを体現する側になりました。
矢嶋さんの姿を見た他の誰かが、また理想のModelとして「最高の公演実現の肝」を体現していくことでしょう。変革を生むModelの循環には、何か軸となるものがありそうです。それは、一体何なのでしょうか。
MPの公演を見に来たお客さんは、みんな揃って「公演最後のカーテンコールが感動的だった」と話します。現に、矢嶋さんをはじめ、MPの参加希望者も「公演最後のカーテンコールを見て、一緒にやりたくなった」と話すそうです。
矢嶋さんは「MPの参加者が、舞台のためにやってきたことを、最後のカーテンコールですべて表現しようとしているのかもしれない」と参加者のカーテンコールにかける思いを振り返ります。
今日の公演実現までの過程を、来てくれたお客さんとも共有したいという思い。それが、見に来た人に感動を与え、魅了するのでしょう。
そう考えると「最高の公演=最高のカーテンコール」と言い換えられそうです。最高のカーテンコールを実現する、という共通の目標に向かって、関わりを変化させ、集団を変革してきたとも言えるのかもしれません。
MPが50年以上活動を続けてこられた理由
そもそもカーテンコールをするきっかけとは何だったのでしょうか。それは、「MPの理念を支えるLoveの精神だったではないか」と矢嶋さんは話します。
MPには英語、協調性、友情、文化理解、個人の成長の5つを原則とした、Five starという団体理念があります。その5つの原則の基礎にあたるのが、Loveの精神です。
舞台を一緒に作り上げているメンバーはもちろん、公演を見にきてくれた人たちまで誰一人取り残すことなく、最高の公演には欠かせない存在であると伝えるカーテンコール。それは、MPの団体理念を支えるLoveの精神の具体的な姿でした。
MPの理念から、基礎となるLoveの精神がカーテンコールとして具体化されます。そのカーテンコールを最高の形で実現するには、各参加者がかけがえのない存在であることを理解する必要があります。
では、理解できる場をつくるにはどうすればいいのでしょうか。それは、変化に対応し、変革を生み出せるような主体性が発揮できる環境を設計することです。
様々な局面で、持続可能性について言及され、誰一人取り残さない社会実現を目指している現在。実現のヒントは、MPの中にあるのではないでしょうか。
最後に
「自分のやりたいことを実現する場が、少ないように感じませんか」
インタビュー中に、矢嶋さんから逆質問されることがありました。やるべきことはたくさんあるのに、本当にやりたいことはなかなか見つからない。
そのような環境で、本当に持続可能性を高められる関係は築いていけるのでしょうか。
「やるべき」で、誰1人取り残さない社会はつくれるのでしょうか。
日本は、SDGsのいくつかの項目で世界にまだまだ遅れを取っています。その遅れを取り返すことが、これから先の日本社会に求められています。そのヒントを見つけに、MPの公演に一緒に行ってみませんか。
グアテマラでの2年間のボランティア活動や学校現場での経験を経て、現在は気候変動問題に取り組む。週に1回マイバリカンでセルフカットするサステナブルBOZU。