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教員の長時間労働はなぜなくならない?実態や原因、対策も

  • 2022年2月5日
  • 2022年2月5日
  • 教育

「キッズ@nifty」が小学生と中学生を対象に行った、「教員の仕事についてどう思うか」をテーマにしたアンケート調査があります。

小学生向けのアンケート結果では、1番目に「子どものためになる」、2番目に「働く時間が長い」、3番目には「責任が重い」となっています。中学生向けのアンケート結果でも、1番目に「苦労が多い」、2番目に「働く時間が長い」、3番目には「責任が重い」でした。

普段一番近くで接している子どもたちにとっても、教員が長時間働いていることや、仕事が大変だということがわかっているようです。

メディアにも度々取り上げられるなど、長年問題視されている教員の長時間労働は、なぜ今もなお改善に至ってないのでしょうか。まずは、OECD国際教員指導環境調査(以後TALISと表記)の結果をもとに、その実態を見ていきましょう。

参考:みんなの本音レポート

教員の長時間労働の実態

2018年のOECD国際教員指導環境調査(以後TALISと表記)では、1週間当たりの日本の教員の仕事時間は参加国中で最長とされています。中でも、中学校の課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間は特に長く、この結果は2013年の調査時から変わっていません。

一方で、様々な業務に相当な時間を割きながら、職能開発活動に使った時間は、参加国中で最も短いという結果でした。例えば、教員の協働的な研修機会としては、月1回以上「専門性を高めるための勉強会に参加する」割合が中学校で5.9%、小学校で15.4%であり、OECD参加国平均の23.0%よりも低くなっています。

常に時代や社会に合わせて変化を求められる教育という分野において、能力の開発にかける時間が、他の国に比べ短い。まずはそんな現状の原因を探っていくことにしましょう。

教員の長時間労働の原因

現在、全ての学校で保護者や子どもたちの学校に対するアンケートが実施されています。今回は、そのアンケート結果をもとに、教員の長時間労働の原因を探っていきたいと思います。

学校の「サービス産業化」

先生方が忙しいのは重々承知していますが、放課後サポートの回数を増やしていただき、その中で宿題等のサポートをしていただけると助かります。

保護者アンケート(評価項目への記述式回答)

放課後の時間の使い方について、もう少し学校側から『こんなスクールがある』等の情報提供をしていただけると助かります。

学校評価保護者アンケート(自由記述)の結果について

学校における働き方改革特別部会の報告によると、教員の業務は、「授業準備」「学習評価や成績処理」「学校行事等の準備・運営、地域行事等への参画」「進路指導」「支援が必要な児童生徒・家庭への対応」とあります。それ以外は、外部機関、もしくは家庭や地域のサポートが必要になってきます。

しかし、保護者からは放課後の時間を割いて、児童生徒のサポートをしてほしいと声が上がります。1人の教員が1人の児童生徒に対応するのであれば、サポートする方法はいくらでもあるでしょう。

ただ、実際には1人の教員が対応するのは、30人近い児童生徒。放課後の時間を割き、同じサポートを30人全ての子どもに行うのは現実的とは言えないでしょう。

とはいえ、「保護者」という顧客に合わせたサービスを行っているのが学校現場の現状です。そして自然と、勤務時間外に本業である「授業準備」や「学習評価」を行うことになります。結果、長時間労働せざるを得ないという状況が生まれます。

「保護者」という顧客に合わせた「子どものため」のサービス。学校がそんな「サービス産業化」した結果、他にどのような影響が出ているかを、引き続き学校アンケートをもとに見ていきましょう。

業務の増加と人材の減少

部活動の時間が少なすぎる。

学校評価保護者アンケート(自由記述)の結果について

一生懸命に練習したのに娘は泣きながら帰ってきました。多数の児童を見なければいけないのはわかりますが、ちょっとがっかりしました。

保護者アンケート(評価項目への記述式回答)

先生方の仕事が忙しく、手が足りていないと感じることがあります。授業の準備時間や子どもと向き合う時間をしっかり確保できるような人員体制になってほしいと、はたから見ていても思います。

保護者アンケート(評価項目への記述式回答)

先程見たように、保護者からの要望に応えることで、本業以外の部分で時間を割かれることが増えていきます。その1つが部活動です。先ほどの学校における働き方改革特別部会の報告で、教員の業務に「部活動」の欄はありません。

しかし、TALISの調査によれば、中学校の課外活動の指導時間が特に長いという結果が出ています。そして、本業である子どもの成長や変化を見取る余裕がなくなり、顧客である「保護者」の不信を生むことにもなります。

保護者も人員が足りていないことは自覚しており、人員確保を求めます。それは、一重に「子どものため」、そして「教員のため」。では、未来の教員となる子どもたちはどう感じているのでしょうか。

小学校の先生になりたい!!とずっと言っていたのですが、何かと忙しい先生を見ているうち…自分にはむいていないと思ったらしいです。今は、獣医を目指して頑張っています。

保護者アンケート(評価項目への記述式回答)

長時間労働という負の側面は、教員という仕事の魅力を失わせてしまっていることが見えます。教員を増やそうにも、教員をやりたいという人が減ってきている現状があるようです。

では、教員の労働環境を改善するため、どのような対策が行われているのでしょうか。

教員の長時間労働への対策

現在実施されている、もしくは実施予定の教員の労働環境改善対策について、

・制度的なもの
・教員それぞれができるもの

の2つに分けて見ていきましょう。

制度的なもの

部活動の外部委託

現在日本では、長時間労働の大きな原因となっている部活動を外部に委託し、教員を本来の業務に専念できるようスポーツ庁が検討を始めています。

海外に目を向けてみましょう。例えば、ドイツの学校では授業は基本的に午前中で終わります。週のうち1、2日程度午後からの授業もあり、学校によっては午後から音楽や演劇などのグループ活動があったりもします。しかし、日本の部活動ほど、長時間活動をしているわけではありません。

では、ドイツの子ども達は、どこでスポーツ活動などを行うのでしょうか。それは、外部のクラブチームです。日本でいうNPOなどがそれにあたり、その数はドイツ全国各地に9万団体以上、会員数は約2800万人であり、7歳から18歳までの学生は27%を占めています(2013年、ドイツ・オリンピック連盟)。

日本でもドイツのように、地域内で部活動の代わりに活動できる場所があれば、教員の負担は減ると考えられます。

しかし、クラブチームに所属することで発生する新たな金銭的負担や絶対的な指導者不足、大会の運営などすぐに地域に委託できないというのが、今後の課題です。

35人学級の実現

「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案」が2021年2月2日、閣議決定されました。この法律案には、小学2年生以降中学3年生まで1学級の上限を40名としていたものを、35名に改訂することが明記されました。

教員1人で受け持つ児童生徒数が減れば、学習評価や成績処理などの業務における負担が減り、少なからずこれまでの労働環境より改善されるでしょう。また、保護者からの「子どもと向き合う時間をしっかり確保できるような人員体制になってほしい」という願いも叶えられるのではないでしょうか。

ここでも、海外と比較してみたいと思います。OECDの2020年の調査によると、アメリカやドイツなどOECD参加国の平均学級規模は、21.1名となっています。また、教育先進国といわれるフィンランドや、EUだけの平均で見れば、どちらも20名以下の規模になっています。

「子どもたちのため」を思うのであれば、まだまだ日本の教育現場には改革の余地があります。それは、希望とも呼べるかもしれません。

もちろん、単純に学級規模を小さくし、学級数を増やせばいいというわけではありません。学級数が増えれば、それだけ教員が必要となります。まずは、教員になりたいと思う人が増えるような、魅力的な労働環境に改善していく必要があるでしょう。

教員それぞれができるもの

保護者からの要求に対する対応を考えることも、教員の労働環境改善に繋がると考えられます。しかし、要求を丁寧に読み解くことなくただ受け入れるだけでは、なかなか「サービス産業化」した学校を変えるのは難しいでしょう。

保護者からの要求を不安や心配の表れと受け取り、双方向的な対話に変えていくことが、労働環境を改善していく上で必要だといえるのではないでしょうか。それは、「その子のため」を想った愛を送受信し合うとも言えるかもしれません。

具体的にはどうすれば良いでしょう。改善策の1つに、「解決志向アプローチ」を用いることが挙げられます。

解決志向アプローチとは、改善点に目を向けるのではなく、可能性や今ある能力に目を向け、共に問題を解決していく心理療法の1つです。

保護者からの要求の根本には、「その子のため」を願うが故の不安や心配などがあることが多いです。その子ができないことに目を向けがちですが、できるようになったことや変わってきたことにも目を向け、その子の成長を共有します。

私が教員として働いていた頃、指示を理解するのが難しい子どもがいました。具体的には、「授業で配ったプリントをノートに貼り、順番に問題を解く」ということを、一人で進められない子です。保護者は教員である私に対して、その子が指示されたことをスムーズにできるようなサポートを求めてきました。

しかし、その子は周りの子たちとのコミュニケーションを通して、これまでできなかったことを、周りの子たちと同じペースで学習できるようになっていきました。元々、保護者が考えていた形とは異なりますが、「他の生徒との意思疎通により、学習していく能力がある」という部分に着目した結果、問題を解決できたケースです。

指示されたこと理解するのが苦手なことは変わりません。しかし、自分でその苦手なことを克服する手段を知ることができました。それは、教員の配慮を必要としない自立した手段です。

子どもの成長により、教員も他のことにエネルギーを注げるようになり、保護者も周りの子たちと上手く関わり合えていることで安心することができるのではないでしょうか。

以上が、教員と子どもや保護者との関わりの中で、改善できると考えられる対策です。

まとめ

今回は、教員の長時間労働について見てきました。部活動の問題、保護者との関係性など、様々な要因が長時間労働を生み出しています。

それらの根本的な要因は、様々な立場の大人たちが抱く「子どもたちのため」という想いです。保護者が抱くその子への想い。教員が抱くその子への想い。子どもたちも大人からの愛に気づいています。

愛が共に積み上げられる学校であるならば、きっと子どもたちが大人になっても戻ってきたくなるのではないでしょうか。変えるべき学校内の仕組みを変えつつ、保護者や地域と子どもの成長を見守り、愛を育む教員へとイメージが変わっていってほしいなと思います。

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