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保育園に入れない子どもたち。待機児童問題の現状と解決策

日本が抱える待機児童問題。共働き家庭が増える一方、子どもを保育園に入れることができず仕事を辞めざるを得ないという人が多くいます。2016年には「保育園落ちた日本死ね」というタイトルのブログが話題になり、ニュースにも多く取り上げられたため聞き覚えがある方も少なくないでしょう。

待機児童の問題は日本が抱える大きな社会問題であり、菅総理は就任会見で「保育サービスを拡充し、この問題に終止符を打っていきたい」と明言するなど、政府にとっても力を入れるべき課題となっています。

そこで今回は、長年解消されない保育園の待機児童問題について、現在はどのような状況なのかや、どのような解決策があるのかを解説していきたいと思います。

参照:保育園落ちた日本死ね!!!

待機児童とは

待機児童とは

待機児童の定義は、「保育園を利用できる条件が揃っていても、保育園が定員に達していたり保育園自体が足りず入園したくても入れず待っている子供」。2020年9月4日の厚生労働省の発表によると、全国の待機児童数は12,439人にのぼるとのことです。

なお、待機児童が多い地域は以下の通りです。

<待機児童の多い都道府県>
1位 東京都 2,343人
2位 兵庫県 1,528人
3位 沖縄県 1,365人
4位 福岡県 1,189人
5位 埼玉県 1,083人

<待機児童の多い市町村>
1位 埼玉県さいたま市 387人
2位 兵庫県明石市 365人
3位 兵庫県西宮市 345人
4位 岡山県岡山市 259人
5位 兵庫県 尼崎市 236人

前年ワースト1位だった東京都世田谷区は470人いた待機児童が0人、兵庫県神戸市も前年の217人を大きく下回る52人と減少に転じた地域がある一方、千葉県船橋市は前年の72人から197人、兵庫県西宮市は前年253人から345人に増加するなど、待機児童が増加した地域もありました。

2020年の全国の待機児童数は2019年と比較すると4,333人減少という結果にはなりましたが、実はその数にカウントされていない「隠れ待機児童」という問題も浮き彫りとなっています。

参照:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和2年4月1日)」令和2年9月4日発表

隠れ待機児童とは

隠れ待機児童とは

隠れ待機児童は一部の自治体では「保留児童」と呼ばれることもあり、以下のような様々な理由で本来希望する保育園に入園できていない児童を指します。

・保育園が空いていないため、求職活動を休止している
・保育園が空いていないから、別のサービスを利用している
・兄弟と同じ保育園に入園希望など、特定の保育園へ入園を希望していて待機している

朝日新聞(*1)によると、全国には隠れ待機児童がなんと7万人以上も存在しているとのこと。

また、2019年10月から始まった幼稚園・保育園・認定こども園などを利用する3〜5歳児クラスと、住民税非課税世帯の0〜2歳児クラスが無償化となりましたが、それによってさらに競争が激化し、隠れ待機児童数が増加する可能性もあります。

このように、待機児童数だけに注目すると減少傾向にあるように見えますが、隠れ待機児童を含めて全体的に見ると、問題解消まではまだまだ長い道のりであることがわかります。

*1:朝日新聞 – 待機児童問題「見える化」プロジェクト –

保育園の種類

保育園と一口に言っても様々な種類があり、条件のよいところには応募が多いぶん入るのも難しくなります。保育園の業態の違いがよくわからないという方もいると思うので、それぞれどのようなメリット・デメリットがあるかを解説したいと思います。

認可保育園

認可保育園

認可保育園は、施設規模・保育士を含む職員数・給食設備・衛生管理・防災管理などにおいて、国が定めた基準を満たしている保育園です。各都道府県知事に認可された施設になり、正式には「保育所」という名称になります。

認可保育園は大きく分けて、以下の3つに分類されます。

<公立保育園>
保育士が公務員で各自治体が運営。

<私立保育園>
社会福祉法人・NPO法人・企業・学校などが運営。公立より制約が少なめなので、運動や英語といった教育に特色が見られる。また、公立に比べ朝・夜の保育時間が長いのも特徴。

<公設民営保育園>
建物などの施設は国や自治体が設置し、保育業務は民間が運営。保育士は公務員ではないが、運営内容は公立の保育園にならっている。
 
今は公立保育園の民営化の動きが多く見られ、早朝・延長保育を可能にしたり、保育士を増員して受入可能な児童数を増やせるといった待機児童問題解決への対策の1つとして期待できます。

なお、認可保育園のメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・比較的保育料が安価。(公立・私立関係なく金額は同じ)
・建物は1人あたり3.3㎡と定められているため、広さがあり園庭もある。(公立の場合)

<デメリット>
・入園待ちの待機児童が多数。
・保育士が他の園へ移動する場合がある。(公立の場合)

無認可保育園(認可外保育園)

無認可保育園(認可外保育園)

運営の届出がされているものの、国から認可されていない施設が無認可保育園(認可外保育園)です。国からの支援を受けていない、全て私立の園が該当します。

運営内容は認可保育園に基づいているものの、施設や設備について緩和されていたり、国の基準に縛られず教育方針の特色を出せるのが特徴です。

なお、無認可保育園(認可外保育園)のメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・親が仕事をしていなくても預けられる。
例:1人目以降で育児休暇中でも上の子を預けられるなど
・認可保育園に比べ入園しやすい。

<デメリット>
・認可保育園より保育料が高額。
※幼保無償化により、0歳~2歳は住民税非課税世帯のみ42,000円/月、3~5歳児の世帯は3,7000円/月までの補助が受けられる。

認証保育園

認証保育園

待機児童数ワースト1の東京都。待機児童数を減らすべく認可外保育園の中で都が定める基準を満たしている園へ支援をしているのが、認証保育園です。

正式には「東京都認証保育所」と呼ばれ、A型・B型の2種類に分類されます。

<A型>
保護者が子供を預けやすい駅周辺に施設がある。保護者からのニーズが高く、保育児の1/2以上は0~2歳児。

<B型>
A型に比べ規模が小さい園。2歳までの子供が保育対象。規模が小さいため、定員も少ない場合が多い。駅から近い園が少ないものの、待機児童数が多い地域では助かる園といえる。

また、横浜市や川崎市でも同じように市が定める基準を満たしている園を認可している保育園があります。

東京都の認証保育園のメリット・デメリットは以下です。

<メリット>
・保育時間が13時間以上(認可保育園は11時間以上)と定められている。
・延長保育時間も認可保育園より長時間可能。

<デメリット>
・園庭が無い、もしくは狭い(A型に多くみられる)
・認可保育園より保育料が高額
※幼保無償化により、0歳~2歳は住民税非課税世帯のみ42,000円/月、3~5歳児の世帯は37,000円/月までが上限で補助が受けられる。

企業内保育所(託児所)

企業内保育所(託児所)

企業内保育所は、自社の従業員が仕事中に託児できるよう企業が社内・近隣に設えた施設です。育児休業後に働きたくても子どもの預け先が無く働けない従業員のために、保育所を設置する企業が増えてきています。

特に医療施設での院内保育所が増加傾向にあり、中でも女性が多い職場の導入率が高いです。国が「企業主導型保育事業」の助成金制度を制定したのもきっかけとなっています。

企業内保育所は認可・認可外に加え、内閣府主導の企業主導型である3種類です。

企業主導型は育児と仕事の両立の支援が目的で、認可保育園より運営時間などの基準は緩くなっています。複数の企業で共同で運営することが可能で、無認可保育園(認可外保育園)でありながら施設整備や運営に助成金が認められています。

なお、企業内保育所のメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・育児と仕事の両立ができる。
例:子供の体調が悪くなったときにすぐに駆けつけられる。職場と保育園の向かう場所に差がないので送迎の時間短縮になる。
・職場復帰が比較的早くできる可能性もあり、保活での離職を予防。

<デメリット>
・仕事が休みの時には利用できない場合がある。
・施設のスペース的に狭い場合もある。
・保育人数や保育士の質的に行事やイベントが認可保育園に比べて少ない場合もある。

認定こども園(幼保一体型)

認定こども園(幼保一体型)

認定こども園は幼稚園・保育園の両方の役割をする施設で、4種類に分類されます。

<幼保連携型>
幼稚園の教育面・保育園の保育面の両方を行う施設で、週6日で11時間の保育時間が定められている。

<幼稚園型>
一般的な幼稚園ではしてない放課後も保育をしているが、幼保連携型に比べ保育時間が短くなることもある。

<保育所型>
認可保育園では預かることがない、保護者が共働きではない子どもでも受け入れ可能。幼稚園で行われるような教育も受けられる。

<地方裁量型>
認可されていない保育園が自治体の認定を受けて教育・保育をして運営している。保育時間はそれぞれ地域で異なる。

認定こども園のメリット・デメリットは以下の通りです。

<メリット>
・子どもの受け入れ条件の幅が広い。
・育児相談などのサービスも提供。
・保育年齢が幅広く、年齢が離れた子どもと接する機会がある。

<デメリット>
・まだ新しい制度で施設数が少ない。
・園によっては高額な場合もある。

待機児童問題の原因

待機児童問題の原因

日本では少子化が進んでいるのに待機児童が多い、という現状が不思議だと感じる方も多いでしょう。ここでは、待機児童問題の原因を解説していきたいと思います。

1つ目は共働きをする夫婦が増え、女性の社会進出が進んだことが挙げられます。共働き世帯は1980年には614万世帯だったのに対し、1990年初めに共働き世帯が専業主婦世帯を上回りました。2019年には1245万世帯と倍以上に増えており、保育園の需要が高まったことが待機児童増加に繋がっています。

2つ目は核家族化です。かつては祖父母などに子どもを見てもらえる大家族が多かったですが、現在では「夫婦などの保護者2人と子供」や「保護者1人と子供」などの世帯が増加し、保育園に預けるという選択をする家族が増えています。

3つ目は、都市部に人口が集中しているという問題です。人口密度が低い地方より都市部に待機児童が多いのは、都市部で保育基準を満たす施設のスペース確保が困難という側面も。加えて近隣住民から「子どもの声がうるさい」などの反対を受け、施設を増やせないというケースもあります。

また、都市部で0歳〜2歳を受け入れる小規模保育所が増えてきても、卒園した3歳児が入る園を探すのが大変な「3歳の壁」問題があります。大体の保育園では2歳児がそのまま3歳児クラスに入るので、定員に空きがでない場合もあります。

最後は、保育士不足の問題です。保育士の人数は増加傾向にありますが、給与などの労働条件や、子供を預かる責任感、保護者との関係、残業の多さといった労働環境が理由で、早期退職する人が多いというのが実情です。

参照:総務省統計局 労働力調査2021年3月2日公表

参照:厚生労働省 図表1−1−3 共働き等世帯数の年次推移

待機児童問題解消への取り組み

最後に、待機児童問題の解消を目指した政府や民間企業の取り組みをいくつかご紹介したいと思います。

新子育て安心プラン(厚生労働省)

新子育て安心プラン(厚生労働省)

女性の就業率の増加を受け、保育施設の受け入れ体制のさらなる強化を目指す計画です。令和6年度末までに14万人分の保育環境を整備促進し、以下のポイントで地域に合わせた支援実施を行います。

・幼稚園の預かり保育の拡充や認定こども園へ転換。保育利用時間や小規模保育の利用者上限者数を増やす。
・ベビーシッターの利用料に対し、助成額が非課税になる。
・保育コンシェルジュの相談支援や巡回バスなどの送迎支援の拡充。保護者と園のマッチングを図る。
・保育士や保育補助者が魅力を感じられるよう環境を整備、保育士の確保。
例:常勤保育士1人→短時間保育士2人でも可能。
  潜在保育士(有資格者でも労働条件の相違で保育士に戻れない人)の復職を目指す。
  勤務時間30時間以下の補助要件を無くし保育補助者の活躍を促す。
・保育環境を整えることで25歳〜44歳の就業率アップに対応。育児休業などの取得促進に取り組む中小企業への助成事業を創設。

参照:厚生労働省 新子育て安心プラン

オフィスに保育所を導入する企業

オフィスに保育所を導入する企業
参照:コトフィス

企業内保育所が増える中、注目したいのが「コトフィス」。「こどもとはたらくオフィス」をコンセプトにした三菱地所グループの保育園で、「企業主導型保育所」として0歳児〜2歳児までの保育が可能です。

<洗濯サービス>
子供の衣服を洗濯してくれます。料金も保育料に含まれます。
 
<おむつサービス>
おむつを用意してくれます。おむつ代は実費になります。
 
<保育アプリ>
園や家庭の様子など、連絡帳機能をアプリで管理します。朝の忙しい時間でもスマホやパソコンで簡単に入力できるので移動中でも連絡できます。

<保育時間に楽しい体験>
幼児向け英会話のECCの日本人・ネイティブ講師による英語プログラムがあります。リズム運動や音楽遊びもあり、5感を使った豊かな感性や自己表現力を育みます。外育では保育ナチュラリストが自然観察や遊びから自然の大切さを教えてくれます。

その他にも、成長や関心に合わせた毎月の絵本プレゼントや、年度末に保育アプリで毎日アップされている写真をまとめたミニアルバムプレゼントもあり、いずれも保育料に含まれています。

また、2020年4月からは「コトフィス学童スクール」も開始。こちらもECCと協業し、英語教育に力を入れています。英語でSTEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学の理数教育に創造性教育を加えた分野横断をする教育)・スポーツプログラムなど、国際感覚を育むことができる教育が魅力です。

参照:コトフィス

   コトフィス学童スクール開業

   STEAM教育

見える化プロジェクト(朝日新聞)

見える化プロジェクト(朝日新聞)

朝日新聞デジタルで公表されている待機児童問題「見える化」プロジェクト。各自治体が待機児童数を調べ、その結果を厚生労働省がまとめたものを9月に発表しています。148市区町村について朝日新聞が集計し、グラフでわかりやすくしたものです。

待機児童数だけでなく、隠れ児童数や問題の原因などもわかりやすくシェア。それぞれの地域の入園決定率や保育料なども一目でわかるようになっていたりと、この問題に関心を持つ人が増えるようなコンテンツが充実しています。

参照:朝日新聞デジタル 待機児童問題「見える化」プロジェクト

最後に

待機児童問題の現状と解決策、いかがでしたか?都市部でも地方でもそれぞれの問題を抱えており、今回ご紹介したもの以外にも全国各地で様々な取り組みが行われています。

また、保育士不足解消のためには、労働環境の整備や待遇面もまだまだ支援が必要だと言えます。厚生労働省の発表によると、時間単位勤務での復職意向がある人は7割を超えています。保育士の復職が増えれることで、保育園の受け入れも希望が持てるのではないでしょうか。

出生率が低くなり、高齢者が増える日本。未来を担う子どもたちのためにも、待機児童問題の解消と保護者と保育環境のマッチングは重要な課題。今回の記事をきっかけに、この問題に関心を持ってもらえる人が1人でも増えたら嬉しいです。

参照:厚生労働省 保育士の現状と主な取組 令和2年8月24日発表

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