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「バーチャルウォーター」とは?意味や問題点を解説 |SDGs目標6.「安全な水とトイレを世界中に」

地球の3分の2は水で覆われていますが、私たち人間が使える水はそのうちたったの0.01%。水の使用量や人口の増加により深刻な水不足となっている地域が数多く存在し、2050年には世界人口の40%が充分な水にありつけなくなるという予想も出ています。

この水不足に関連性が高いのが「バーチャルウォーター」と呼ばれるもの。食料自給率が低く、畜産物を輸入に頼っている国が間接的に他国に大量に使わせてしまっている水を指し、私たち日本人の生活にも関わるトピックです。

そこで今回は、バーチャルウォーターの意味や問題点、食事別の水の使用量などについて解説していきたいと思います。

バーチャルウォーターとは

バーチャルウォーターとは

バーチャルウォーター(Virtual water)は、農畜産物などの食料を輸入する「消費国」が自国でつくるとした場合、どのくらいの水が要るのかを推定したものです。ロンドン大学のアンソニー・アラン教授が打ち出した理論で、日本語では「仮想水」「隠れた水」とも呼ばれています。

例えばとうもろこしを1kgをつくるのに、灌漑用水(*1)として1,800Lの水が必要だと言われています。とうもろこしなどの穀物を食べて育つ牛は、飼育期間が長くたくさん消費します。そのため牛肉1kgを生産するためには穀物を栽培をする水の量の約20,000倍もの水が必要となるのです。

外国から食料を輸入した場合、その食料だけでなく、目には見えない栽培・飼育に必要な水も一緒に輸入していることになるというのがバーチャルウォーターの考え方です。つまり、畜産物を他国からの輸入にどれだけ頼っているかでバーチャルウォーターの数値も変わります。

バーチャルウォーターに似た考えの言葉で「ウォーターフットプリント」というものもあります。バーチャルウォーターも含めて考える概念ですが、生産から消費された後まで全ての過程で消費される水に注目し、消費した水の水源地や内訳まで測量する指標というのが違いです。

*1 灌漑(かんがい)とは、川・湖・地下水・ダムなどから作物を育てるために、田・畑へ人口的に給排水する水のこと。

バーチャルウォーターの問題点

バーチャルウォーターの問題点

バーチャルウォーターという考えに基づけば、間接的に輸出国の水を輸入・使用していることになります。水資源が豊富な国にとっては水の消費が少なくなりますが、水資源が乏しい国にとっては水不足問題を悪化させる要因にもなるという、不公平な構図が浮かび上がるのです。

世界最大の地下水を輸出しているパキスタンでは利用可能な水が毎年80%ずつ減少し、エチオピアでは泥水を汲むために3時間も歩くなど、水不足によるストレスを抱えている国が他にも多くあるのが現状です。

ちなみに、世界の水使用量うち70%は農業で使用、そして22%が輸出品を生産するために使われています。

消費国が輸入を止めてしまうと、開発途上国にとっては農産物を輸出することで成り立っていた経済が立ち行かなくなる国もあります。そして農産物の生産者は収入がなくなってしまうので、生活ができなくなってしまいます。水資源を守るために輸入をやめることは現実的とは言えません。

また、現在のような輸入・輸出に頼っている状態だと、輸出国で干ばつや洪水が起きて農業に被害がでた場合、食料が大きく減少して価格高騰が起きる可能性もあります。

国際NGOウォーターエイドは、2030年までに世界で必要な水を必要なときに利用できるようにすることを提言し、行政や企業に呼びかけています。

イギリスの酒造会社のディアジオ社は、生産工場で消費される水の量を50%にする「ウォーターブループリント戦略」を打ち出し、アフリカへ清潔な水や衛生設備を支給する活動をしています。

日本では令和12年度までにカロリーベースの総合食料自給率を45%、生産額ベースの総合食料自給率75%を目標にしています。

参照:ウォーターエイド – 隠れた水

日本が輸入するバーチャルウォーター

日本が輸入するバーチャルウォーター

食料自給率が低い国は多くのバーチャルウォーターを輸入しており、日本もそのうちの1つです。

日本の食料自給率は約38%、つまり約62%の食料を輸入に頼っています。実際に国内で賄われている水と輸入しているバーチャルウォーターの割合は食料自給率とは異なり、水は22%、バーチャルウォーターは77%といわれています。

世界のバーチャルウォーターの最大輸入ランキングを見ると、1位オランダ・2位イタリアと続き、日本は6位。上位に入る国は、人口が多い・食料自給率が低いのいずれかに該当する先進国、G7(カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・イギリス・アメリカ)のほとんどがバーチャルウォーター輸入大国です。

日本は単身・共働き世帯の増加や食生活の変化により、自給率の高い米の消費が減っています。一方、畜産物の飼料や原料を外国に依存していたり、油脂類の消費が増えているなど、長期的に自給率が下降傾向にあります。

2005年に輸入されたバーチャルウォーターは約800億㎥で、その多くは食料起因です。この水の量は日本で使用された年間の水の使用量と同じくらいの量ですが、食料自給率が減少していると考えると、現在はそれよりも多い隠れた水を輸入していると言えるでしょう。

参照 Kids環境ECOワード【生態系】No.15「仮想水」ってな〜に?

食べ物別のバーチャルウォーター量を知る

私たちが普段口にする食べ物を生産するのにどのくらいのバーチャルウォーターが必要とされているのか、1日に食べる食事を想定して見てみましょう。

朝ごはん:パン・牛乳・たまご・コーヒー

朝ごはん:パン・牛乳・たまご・コーヒー

食パンの6枚切りは60gなので約96L、牛乳を250mlとして約138L、たまごは1個56gとして約179Lが必要なバーチャルウォーターの量。また飲み物としてのコーヒーには210Lが必要なので、合計で623L。これは500mlのペットボトル約1,246本分になります。

参照 環境省 Virtual water

お昼ごはん:ハンバーガー・オレンジジュース

お昼ごはん:ハンバーガー・オレンジジュース

ハンバーガーのバーチャルウォーターは999Lです。ハンバーガーに使われている牛肉45gはバーチャルウォーターの必要量は927Lです。パン45gは72Lが必要としています。これをみても牛肉のバーチャルウォーターの量の多さに驚かされます。

オレンジジュースは420g飲むとした場合、170Lが必要で合わせると1,169Lになります。これは500mlのペットボトル2,338本分になります。

参照 環境省 Virtual water

夜ごはん:生姜焼き定食・ビール

夜ごはん:生姜焼き定食・ビール

生姜焼き定食に必要なバーチャルウォーターは1,271L。ビールを飲むとするとさらに113Lが必要です。これらを1つの食事として合わせると1,384Lが必要で、500mlのペットボトルだと2,768本分になります。

牛肉より豚肉の方が飼育期間が短く、必要な飼料の量も少ないなど、同じお肉でもバーチャルウォーターの必要量に大きく差があります。

参照 環境省 Virtual water

このように想定したメニューだと、1日3食で3,176Lもバーチャルウォーターが必要です。500mlのペットボトルだと6,352本、一般家庭にある浴槽の容量は200Lなので、約16杯分もの水の量を1日の1人分の食事で必要としています。

また、環境省の「Virtual Water」というサイトでバーチャルウォーター量を自動で計算できるページがあるので、もっと詳しく計算したい方は試してみてください。

参照 環境省 バーチャルウォーター量自動計算機

最後に

普段から私たち日本人が当たり前のように口にしている食べ物を育てるために、他国の水が大量に使われている。そんな目に見えないバーチャルウォーターの存在を知ることは、SDGsに貢献する上での第一歩になるのではないでしょうか。

今後もWEELSではSDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」にも関連する、世界の水問題について発信していきたいと思います。

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