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マイクロプラスチック汚染とは?現状や人体への影響、取り組みも

環境保護の観点から、近年は世界で脱プラスチックの動きが加速しています。日本でも2020年の7月からレジ袋の有料化が義務化され、マイバッグを持ち歩く人たちが多く見られるようになっています。

プラスチック問題を理解する上で欠かせないトピックの1つが、「マイクロプラスチック」です。生物の生態系や人体への影響が懸念されており、世界各国がマイクロプラスチックの発生削減に取り組んでいます。

そこで今回の記事では、マイクロプラスチックがどのようなものなのか、現状や問題点、対策などについて解説していきたいと思います。

マイクロプラスチックとは

マイクロプラスチックとは

マイクロプラスチックは直径5mm以下の小さいプラスチックのことです。そのため、サイズの大きなビニール袋やペットボトルは含まれません。

単位には「マイクロメートル(μm)」が使われ、1マイクロメートルは0.001mm、髪の毛の太さの1/1000程度のサイズです。目視はできない、顕微鏡でしか確認できないサイズのマイクロプラスチックも含まれます。

2018年にISO(国際標準化機構)にマイクロプラスチック専門検討会が発足され、メゾ・ナノプラスチックなどの分類名称を追加したり、サンプリング・分析・測定方法における国際標準化を目指しています。

マイクロプラスチックの発生原因は様々ありますが、大きく以下の2つに分けられます。

1次的マイクロプラスチック(primary microplastics)

1次的マイクロプラスチック(primary microplastics)

1次的マイクロプラスチックは、製品の生産をしたり、原料として使用するために小さなサイズでつくられたプラスチックです。洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤に、「マイクロビーズ」という研磨剤としてプラスチックが含まれている場合があり、これも1次的マイクロプラスチックに当たります。

溶かして成型するプラスチック製品の原料になる「レジンペレット」は、約2〜6mmの円筒型・円盤型・球型など、様々なかたちの小粒なプラスチックです。製造・輸送の過程で漏れたり溢れたりしたものが、河川などを経由したり、船からの投棄といった原因で海洋へ流出されているのが現状です。

また1次的マイクロプラスチックがさらに小さい破片になり、次に説明する2次的マイクロプラスチックになる場合もあります。

2次的マイクロプラスチック(secondary microplastics)

2次的マイクロプラスチック(secondary microplastics)

2次的マイクロプラスチックは劣化して粉々になり、「元々は大きかったのに小さくなった破片のプラスチック」です。

以前は、海に流れ着いたビニール袋などのプラスチック製ゴミの多くが、波や太陽の紫外線によって耐久性が下がり、劣化・分解・発生するのが大半だと思われていました。

しかし近年では、陸上で小さくなった破片が雨によって流され、排水や河川などから海へ流れ着くケースが多いこともわかってきています。

マイクロプラスチック汚染の現状

マイクロプラスチック汚染の現状

世界の海に漂っているプラスチックの量は50兆個以上と言われており、海面に浮遊しているマイクロプラスチックはほんの一部で、多くは海底に溜まっています。

比重が海水よりも大きい塩化ビニル樹脂・ゴム粉・一部の合成繊維などは海底に沈みます。また比重が小さいポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレンなども集まって塊になり、海中で藻類や微生物、貝類などが付着して比重が大きくなり海底へ沈むと考えられているのです。

東京湾では1970年以降から、海底の泥の中にマイクロプラスチックが混ざっていることが確認されています。このマイクロプラスチックの約95%が河川などから東京湾へ流れ着き、海底に堆積していったものと見られています。

マイクロプラスチック問題で重要なのは有害化学物質の吸着と濃縮です。有害な物質を含んだマイクロプラスチックを、海洋生物が誤飲・誤食することによって、生態系に及ぼす影響が大きく懸念されています。

少なくとも114種の海洋生物からマイクロプラスチックは見つかっており、誤飲・誤食すると炎症反応・摂食障害などに繋がり、生殖系や肝臓に悪影響が出る可能性があります。

例えば、プラスチックを多く取り込んだ鳥は血液検査で中性脂肪が高く、カルシウム不足といった影響を受けます。そうなると卵の殻が薄くなるので敵に襲われやすくなり、孵化できず、出生率が低下し、個体数の減少・絶滅に繋がっていくのです。

参照:International Pellet Watch(IPW) 

参照:International Pellet Watch(IPW) 2021年

上のマップは、ポリ塩化ビフェニル(以下、PCBs)による地域別の海洋汚染状況を示したものです。

PCBsは分解されにくく、残留性の高い物質です。1960年代の高度経済成長期では先進工業化国が使用していましたが、毒性が高く、1970年代前半に使用が禁止されました。

アメリカ・西ヨーロッパ・日本はPCBsを大量に消費していたため、使用禁止から60年以上経った今でもPCBsによる海洋汚染が続いていることが汚染マップを見てもわかります。

*1:残留性有機汚染物質。難分解性・生体蓄積性があり、環境汚染を起こす可能性がある。日本では原則、製造・使用は禁止されている。

マイクロプラスチックによる人体への影響

マイクロプラスチックによる人体への影響

マイクロプラスチックは、すでに人間の体内からも発見されています。

2018年、オーストリアのウィーン医科大学の胃腸病学者であるフィリップ・シュワブル氏が欧州消化器病学会で発表し、調べた8人全員から9種類のプラスチックが発見され、被験者には日本人も含まれていました。

マイクロプラスチックが人体に入る侵入経路は、飲料水・ビール・食塩・海産物・ほこり・合成繊維の衣服など、あらゆる原因が考えられます。

プラスチック自体は排泄されますが、有害化学物質は体内で蓄積されていく可能性があります。環境ホルモン(*2)に作用する物質がプラスチックには含まれており、体内に入ることによって生殖能力の低下・発がん性・免疫力の低下などが危惧されています。

また、海水の中に残ったPCB(ポリ塩化ビフェニル) は知能への影響があり、プラスチックから溶け出した「ノニルフェノール」と呼ばれる物質により乳がん細胞も増殖したと、ヒト細胞の実験・研究結果で発表されています。

さらにプラスチックに使われている添加物は、ビタミンや代謝に必要な成分を攻撃し、免疫を下げる働きをすることもわかってきました。これらのことから、マイクロプラスチック問題は海洋生物だけでなく、私たち人間にとっても重要視すべきものだと言えます。

*2:人間を含む生物のホルモン作用をかく乱し(内分泌かく乱作用)、生体に障害や有害な影響を起こす作用がある物質。内分泌とは特定の細胞がホルモンを分泌し、代謝・成長・生殖などを調節するシステムを指す。

参照:ナショナルジオグラフィック 人体にマイクロプラスチック、初の報告

マイクロプラスチック問題解決への取り組み

環境ホルモンを有するマイクロプラスチック問題を解決するために、海外・国内では様々な対策が行われています。

海外のマイクロプラスチック問題への取り組み

海外のマイクロプラスチック問題への取り組み

1991年、イタリアの海岸にクジラが打ち上げられました。そのクジラの胃から50枚ものレジ袋が見つかったニュースをきっかけに、それまで無料だったレジ袋を有料化にする動きが広まりました。

国連環境計画(UNEP)の2018年の報告書によると、83カ国は無料配布を禁止、127カ国がレジ袋の法規制をしています。

またアメリカ、韓国、フランス、イギリス、カナダなどは、マイクロビーズを含む化粧品・洗浄剤の製造を禁止しています。

EU(欧州連合)は、ストローやカトラリーといった使い捨てプラスチック製品の流通を、2021年までに禁止する法案を2019年に採択しました。中国もEUのような禁止規制の計画を発表しています。

台湾では2019〜2030年に段階的にプラスチック製のストローを完全廃止、無料のプラスチック製のショッピングバック・使い捨ての容器での提供も禁止しています。

ケニアではプラスチック製のレジ袋の輸入・製造・使用・販売が禁止されており、世界中で「ワンウェイプラスチック」と呼ばれる使い捨てのプラスチック削減に取り組んでいます。

日本のマイクロプラスチック問題への取り組み

日本のマイクロプラスチック問題への取り組み

日本では、2019年に環境省が策定した「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」という対策を始めています。これは環境の改善や生態系の保護を目的としていて、プラスチックの有効活用を前提とした取り組みです。

海の更なる汚染を防ぐために、プラスチックゴミの陸・海での回収・処理を徹底。プラスチックごみが海へ流れ着いてしまったとしても微生物などにより分解され、海への負担・影響が少ない素材の開発・使用への転換を進めていく方針です。

例えば東京のある大学では、微生物が生合成する「生分解性バイオポリエステル」を使い、釣り糸などに応用できる高強度繊維が開発されています。今までのポリエチレンやポリエステルのような強度があり、土や海の中では微生物などに分解されるので、環境への負担・影響が少ない素材として期待されています。

大手総合メーカーでは、植物由来の生分解性プラスチックの製品を開発。微生物により水と二酸化炭素に分解され、これまでのプラスチックのように簡単に加工できるのが特徴です。

アサヒ飲料を先駆けとした「ラベルレス」シリーズも注目です。商品のボトルにラベルを使用しないぶんプラスチックの減量になり、ラベルを剥がす手間が省けるので、リサイクルの促進にも繋がる取り組みだと言えます。

最後に

今回の記事で紹介したように、現在は国や企業が様々なマイクロプラスチック問題解消への取り組みを行なっています。一方で、私たち個人レベルでも、このような問題の現状や環境への影響を知り、認知を広めていくことはとても大切なことではないでしょうか。

今後もWEELSではプラスチック関連の発信を行い、少しでも環境保護意識への向上に貢献していきたいと思います。

こちらの記事もチェック:海洋プラスチックごみ問題とは。解決への取り組みや、私たちができること

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