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資本主義の限界?数や量から「質」へのシフトを迫られる社会

世界の多くの国々が資本主義のもと経済活動を行っていますが、近年は資本主義の限界を唱える意見が多く見られるようになりました。しかし、なぜ現在の資本主義が限界を迎えていていると言われているのでしょうか。

新型コロナウイルス感染防止策としての都市封鎖や行動制限は、世界経済に深刻な影響をもたらしています。もし資本主義の限界が近づいているのであれば、経済活動が緩やかな今こそが変換のチャンスになるのかもしれません。

今回はそんな資本主義について、これまでと、これからのあるべき姿について考えていきたいと思います。

資本主義とは

資本主義の定義

資本主義の定義

「資本主義」と一口に言ってもぼんやりしているため、まずは定義から見ていきましょう。

封建制度に次いで現れ、産業革命によって確立された経済体制。生産手段を資本として私有する資本家が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者から労働力を商品として買い、それを上回る価値を持つ商品を生産して利潤を得る経済構造。生産活動は利潤追求を原動力とする市場メカニズムによって運営される。キャピタリズム。

引用元:weblio辞書

上記のポイントを簡潔にまとめると、資本主義とは

  • 生産活動の主体が資本
  • 資本家が労働者に支払う対価よりも大きな利益を得る構造
  • 自由競争市場の中で利益を追求しながら生産活動が行われる

がおおよその定義と言えます。

欧米諸国で資本主義経済が確立されていったのは、18世紀後半から19世紀半ばにイギリスで起きた産業革命の頃。日本では士農工商制度(*1)が廃止された明治維新後に導入されたと言われています。

*1 士農工商制度:武家・農民・職人・商人の四民の社会階級制度。

資本主義社会が成長した理由

世界が資本主義経済を中心に回り始めて以来、多くの国・企業が自由競争市場の中で大きな経済的発展を遂げてきました。資本主義が限界に近づいていると言われている理由を理解する上でも、ここでは資本主義社会がこれまでどのようにして成長てきたのかを見ていきましょう。

機械設備の技術発展による大量生産

機械設備の技術発展による大量生産

資本主義社会が大きく成長した理由の1つに、技術発展に伴って機械設備が充実していったという背景が挙げられます。それまでの道具を使った手作業では生産できる数・量に限界がありました。効率よく生産できる機械の登場によって、より速く、大量につくれるようになっていったのです。

さらに生産性の効率化を図るため、大規模な工場で大量に生産できるスタイルが次第に一般化。24時間稼働すの工場が増え、生産量を増やすことでどんどん利益を拡大させることが可能となりました。

物価の低い国で安いコストで生産

物価の低い国で安いコストで生産

よりコストを抑えて大量生産する手段の1つが、物価の低い国での生産体制を敷くことです。安い土地代、建設費、人件費などによって支出を下げることにより、より大きな利益を生み出せる仕組みとなっています。

私たちの生活の中で使っている数多くの製品が中国やベトナム、タイなどの国でつくられているのはご存知だと思いますが、日本だけでなく多くの先進国の企業が同じように物価の安い国に進出しています。

これによって低コスト・大量生産が可能になるだけでなく、外国資本が入ってくる途上国でも新たな雇用創出やスキルの習得、労働者の賃金上昇、経済成長、貧困問題の解消などに繋がるという側面も。そのため、タイのように外国企業への戦略的な規制緩和・誘致を積極的に行い、自国に成長をもたらしている国々が出てきました。

発展余地の大きい新しい産業分野

発展余地の大きい新しい産業分野

昔はあらゆる産業において、まだまだたくさんの発展余地がありました。世の中に足りていないよりよい製品・サービスをたくさん生み出すために大規模な投資が行われ、各分野の産業は今日までに目覚ましい発展を遂げてきました。

道具から機械生産への革新や、インターネット・スマホといった情報革命など、あらゆる分野の発展余地を埋めながら新しいものが産み出されていったのも、資本主義社会が大きくなっていった理由の1つ。そのような発展により生産されたもので国・企業は大きな利益を生み、私たちの暮らしも便利で豊かなものになっていきました。

なぜ資本主義の限界・終焉が近いと言われているのか

資本主義経済によって発展してきた世界にとって、なぜ資本主義の限界・終焉が近いと言われているのでしょうか。考えられる理由の一部をご紹介します。

「途上国」から「新興国」へ

「途上国」から「新興国」へ

少し前までは「途上国」というと、生活全般の水準が低い、発展・開発が「途上」というイメージでしたが、近年では経済成長が期待できる国々を指す「新興国」という言葉も多く使われるようになりました。

特に注目される国はBRICs(ブリックス)と呼ばれる、ブラジル(Brazil)・ロシア(Russia)・インド(India)・中国(China)です。この4カ国が2050年にGDPで上位6カ国に入る可能性があり、広大な国土・多くの人口・豊富な天然資源を力に、今後大きく成長すると予想されています。

新興国は人口の増加による労働力・消費が拡大。投資や雇用の増加、そして所得水準の向上に繋がります。アジアをはじめとする新興国は先進国のやり方を手本とし、人材育成や産業構造の転換に力を入れ発展していきました。

これら新興国では、経済が成長していくに従って物価も上がっていきます。そうなると、次第に先進国にとって新興国は低コストで大量に生産できる国ではなくなってきます。そのような国々が増えていけば、従来の資本主義のやり方にいつか限界が来ると考えるのは自然だと言えます。

日本はバブル崩壊後、「失われた20年」と呼ばれる経済の長期停滞期でデフレ(需要と供給で需要が少ない、供給過多により物価が下がる現象)が続いています。デフレは物よりお金の価値が上がり、需要(消費と投資)が縮小してしまいます。ますます市場が縮小していくので、企業の売り上げは下がり最悪は倒産し、労働者は給料が下がったり、仕事を失ったりどんどん貧困化が進み格差が広がりを見せています。

資源の枯渇

資源の枯渇

枯渇エネルギーは再生不能・非再生資源とも言われており、人間が使う速度以上には補給されない天然の資源を指し、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料が代表例です。資本主義における大量生産・消費では多くの資源を消費しており、このままのペースで使い続けていればいつかは枯渇してしまいます。

ちなみに石油や天然ガスが採掘可能なのは、今から数えておよそ50年と言われています。つまり、今後新たな油田やガス田が見つからず埋蔵量が増えていかなければ、50年後にはなくなってしまうのです。

資源が枯渇に近づけば近づくほど、需要に対して供給が少なくなるので価格は上昇します。日本のように資源を輸入に頼っているような国にとっては経済的な負担が大きくなったり、何より本当に資源が枯渇してしまったら人々は今のような生活はできなくなるでしょう。

持続可能な世界を目指す今の時代にフィットしない

持続可能な世界を目指す今の時代にフィットしない

SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」としても掲げられている消費と生産。資本主義の「大量生産」「大量消費」は資源枯渇の懸念だけでなく、生産や廃棄に伴うCO2排出より地球温暖化を加速させていることも見逃せません。

また2021年4月、フランスのNGOなどが、ユニクロなど複数のブランドを世界で展開するファーストリテイリングを告発。中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区での少数民族に対する強制労働に関するもので、安い人件費で大量生産を行うことでこのような人権問題に発展するケースも多くあります。

さらに、最近ではESG投資(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス:企業統治)と呼ばれる、財務情報にはない要素を含めた投資判断が注目を集めています。つまり、SDGsへの貢献度が低い企業や国は、投資の対象から外されてしまう可能性があるのです。

これらを見ても、これからは大量生産・消費による成長・拡大ではない、新たな資本主義の形を模索していくことが求められているのではないでしょうか。

少子高齢化と労働人口減少

少子高齢化と労働人口減少

世界では人口が増加傾向にありますが、日本は少子高齢化が社会問題になっています。少子化は未婚・晩婚・高齢出産、高齢化は医療の発展により平均寿命が伸びているのが理由で、2060年には生産年齢人口と非労働人口の割合が逆転すると言われています。

生産年齢人口減少で危惧されているのが、「2030年問題」です。「労働市場の未来推計2030」を発表したパーソル総合研究所によると、2030年の人手不足は644万人にのぼるという予測。生産年齢人口が減れば、経済成長の伸びも鈍化することになるでしょう。

生産年齢人口が増加が前提で経済の成長・拡大を続けてきたこれまでと、少子高齢化が加速する現在では状況が異なります。つまり、これまでのやり方では経済成長が見込めなくなり、自ずと限界が訪れる可能性があるのです。

参照:みずほ総合研究所 図表2 労働力人口と労働力率の見通し

   パーソル総合研究所 労働市場の未来推計2030

数や量から「質」を重視した社会へのシフト

数や量から「質」を重視した社会へのシフト

資本主義の様々な面で限界が見えてきた今、国・企業・私たち消費者にはどのような行動が求めてられているのでしょうか。

コロナウイルス感染の拡大で2020年の世界経済がマイナス成長になった一方で、大気や海洋などの環境汚染が大幅に改善されたという報告も。CNNによると、ロックダウンによって8割以上の国々の大気汚染が軽減されたとのことです。

国境封鎖やステイホームなどにより、旅行業界も経済的に大きな打撃を受けました。その一方で、これまで環境破壊や騒音、ゴミといった問題を引き起こしてきたオーバーツーリズムを見直すきっかけとなり、数や量ではなく「質」を重視したツーリズムが求められてきています。

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また、ゼネラルリサーチ株式会社が2021年4月調査にした「消費と対応の動向調査」では、「価値のあるものにそれ相応の対価を払うべき」だと考える人は全体の71.9%。個人の消費思考が変わってきていることが伺え、環境保護や人権を重視する、エシカル消費(*1)に関心を持つ人も増えてきています。

このような、GDPでは見えにくい「質」を重視していくことが、これからの資本主義に求められる姿なのかもしれません。

大量生産された100円の箸を100本売るよりも、製品のストーリーから見る1膳1万円の箸を1本売るような企業が増えると、環境保護・経済成長・人権のいずれも重視したより良い社会にシフトしていけるのではないでしょうか。

1* エシカル消費:地域の活性化や、雇用なども含めた人・社会・環境を配慮した消費やサービス行動のこと

参照:大気環境がロックダウンで改善、世界の84%

   ゼネラルリサーチ 【2021年最新版】消費と対応の動向調査

最後に

日本では数年前から「断捨離」や「ミニマリスト」など、供給過多な生活から脱却するシンプルな暮らし方を耳にするようになりました。決してそれらが絶対に正しい選択だと言い切ることは難しいですが、そのムーブメントこそが現代の資本主義に疑問を抱いている人の多さを物語っていると言えます。

WEELSではポスト資本主義がどのような方向へ向かっていくのか、今後も注目し続けたいと思います。

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