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住み続けられるまちづくり。人口2,000人の田舎町を住みたくなる町へ

若年層を中心とした都心部への人口流出により、日本の数多くの地域で過疎化・高齢化が加速しています。人材不足をはじめ、住居の老朽化や空き家問題、スーパーや交通といった利便性の低下といった問題が大きくなっており、2050年には現在人が住んでいる地域のおよそ20%が無居住化するという総務省の予測(*1)も出ています。

そんな中、各地域の貢献になるような活動によって地域全体の活性化に取り組む「地域おこし協力隊」の活動が高く評価されてきています。積極的に隊員数を増やしている自治体もあり、全国では創設当初の90人から平成30年には5,000人以上となりました。

今回インタビューさせていただいた岡山 紘明さんも、愛媛県内子町の「小田地域」で活動する協力隊の1人。過疎化の進む人口約2,000人の地域でのまちづくりに取り組み始めて2年、今では地域で彼のことを知らない人はいないくらいの存在となりました。

そんな岡山さんが「住みたくなる・住み続けられる町」をつくるために行っている様々な活動の具体的な内容や、日々奮闘する中での成果や苦労、これからの展望などを余すことなく語っていただきました。

*1:国土交通省国土計画局推計値(メッシュ別将来人口)、国土交通省国土計画局「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」

岡山 紘明さんのプロフィール

1994年生まれ。神戸市出身。東京大学の大学院に籍を置いたまま、2019年4月から愛媛県内子町の地域おこし協力隊として活動。古民家やシェアオフィスなどを再生・管理しつつ、「どい書店」のオーナーとして喫茶店営業も行う。

 

内子町へ移住、地域おこし協力隊に。

 

──まず、内子町の地域おこし協力隊になったきっかけはなんだったのでしょうか?

岡山さん:大学院では建築のパース(建物の外観・内観を立体的に描いた図)を描いたり、古いものを生かしたまちづくりといったものを学んでいました。そんな中、大学院の研究室で内子町の歴史まちづくりに携わる機会があり、2017年から1年半の間に15回ほど内子に訪れていました。何度も足を運ぶうちに内子町のよさに気づき、ここに住みながらまちづくりをしたいと思い始め、2019年に地域おこし協力隊として活動することを決めました。

──ということは、協力隊として移住する前から岡山さんの中である程度のまちづくりのビジョンがあったということですか?

岡山さん:そうですね。移住する前に「小田街道プロジェクト」という計画を立てていました。具体的には、主要な道を中心とした「コンパクトシティ型拠点整備」、空き家・空き店舗や閉校を利用した「保全型まちづくり」、そしてそれぞれが連携した「情報発信」といった内容です。この計画を知った役場の方が、これらに近い形で協力隊の業務として認めてもらったという流れです。

まちづくりの活動拠点「どい書店」をオープン

 

──なるほど。それらの計画の中でまず一番初めに行ったことはどれでしたか?

岡山さん:まず初めに行ったのは、自分の活動の中心となる拠点づくりでした。小田地区の商店街にある旧書店の古民家を借り、全てのミッションを網羅したプロジェクトを実行できる場所を構えることになりました。

──それが、自らがオーナーを務める「どい書店」ですね?

岡山さん:そうです。もともと書店だったので、まずは本を置くところから始めて(笑)。次第に同年代の移住者が集まってきたり、地域の大人や子どもが訪れたりという、コミュニティスペース的な場所になっていきました。

──まさに「人が人を呼ぶ」という感じですね!現在、どい書店ではカフェの運営もしているんですよね?

岡山さん:はい、2020年の11月に「喫茶どい書店」としてオープンしました。もともと飲食店用につくられた建物ではないので、キッチンなどの整備をする必要がありました。それなりに工事費用がかかる中、辿り着いたのがクラウドファンディングでした。ありがたいことに多くの支援をいただき、目標の70万円を上回る81万4千円を集めることができました。

──すごいですね!地域の方からの岡山さんへの応援や期待が感じられます。ちなみに、なぜ喫茶店を始めようと思ったのですか?

岡山さん:小田でのまちづくりの活動をしていく中で、「これからは地元の高齢の方々も気軽に寄れて、飲食をしながらくつろげる場所をつくりたい」という想いが湧いてきました。どい書店のある商店街にはそのようなカフェがなかったというのもあり、まずは自らがアクションを起こしてみました。

──喫茶店のスタッフさんは何人かいらっしゃるんですか?

岡山さん:現在、自分も含め4人で回しています。全員が同年代で、小田に移住・Uターンしてきた仲間と楽しくやっています。みんなでメニューを考えたり、コーヒーの淹れ方を学びに行ったりなど、チームで運営している感じです。今は週末のみの営業なのですが、有難いことにSNSで知って町外からわざわざ足を運んでくれる方も多くいます。そんな喜びをチームで分かち合えるのがとても幸せですね。

同年代の移住者たちと一緒に仕事をすることも

 

──すごく楽しそうな雰囲気なのが伝わります!先ほど、「同年代の移住者がどい書店に集まってきた」と言っていましたが、喫茶店スタッフの方たち以外の移住者もいらっしゃるんですか?

岡山さん:実は、自分が移住してからこの2年くらいで8人の移住者と3人のUターン移住者がこの地域で暮らしています。フリーランスの写真家や映像クリエイター、シンガー、インスタグラマー、プログラマー、ライター、歯科衛生士、アロマ製造など、個性あふれるメンバーが揃ってます。

その中でも、最初にどい書店に集まってきた人たちを「どい書店メンバー」と呼んでいて、地元企業からの案件を受注してチームで仕事をしたりということも頻繁にあります。もちろんプライベートでの繋がりも濃く、みんなで一緒にご飯を食べて話して、というのは日常茶飯事です。

──若者のコミュニティができてて、いい方向に作用しているということですね。フリーランスの方々は普段はどい書店を仕事場として利用しているのですか?

岡山さん:始めはどい書店で作業していたのですが、人が多くなってプライベートと仕事がごっちゃになってきてしまうという問題が出てきました。そんな時にちょうど近所の旧銀行の建物を借りれることになり、今はそこをシェアオフィス「コバンク」と名付けて利用しています。

現在、シェアオフィスは自分も入れて法人4社と個人事業主3人が利用しており、メンバーがチームとなって仕事を受注したり、メンバー間で新しいプロジェクトがどんどん生まれています。今後は彼らのようなテレワーカーの拠点としてだけでなく、学生の学習スペースやイベント開催などもやっていけたらなと思っています。

旧旅館の古民家をシェアハウスにした「おだいま」
旧銀行をシェアオフィスにした「コバンク」
地元の高校生とつくったキッチンカー

その他の活動と今後の展望。

 

──どんどん可能性が広がっていきますね!岡山さんが地域のために行っている活動が他にもあれば教えていただけますか?

岡山さん:今のところ、小田地域を丸ごとテレワーク拠点として利用できるプロジェクト「小田テレパーク構想」や、旧旅館の古民家をシェアハウスにした「おだいま」に携わっています。また、移住希望者に空き家を紹介したり、小田への来訪者の案内、地元の高校生たちとキッチンカープロジェクトも行っています。

──すごく色々なことを手がけられているんですね。それらをやろうと思うと、やはり地元住民の方々からの理解や協力が得られないと難しい部分も出てくるのではないですか?

岡山さん:そうですね。そういった点で言うと、自分に伝える力があまりないというのもあるのですが、地元の方々とうまく意思疎通ができてなかったりして、「岡山のことがよくわからない」と思った人も多いのではないかなと思います。

──それでも地元民の方々としっかり繋がりを保ちながら活動を続けていくことで、今のように岡山さんを頼りにして声をかけてくる人が増えていったのですね。来年度で地域おこし協力隊としては3年目、ラストイヤーとなると思うのですが、今後のまちづくりの具体的な展望などがあれば教えてください。

岡山さん:いくつかやっていこうと思っていることはあるのですが、1つは「空き家対策」です。過疎化が進むこの地域には、まだまだ使える空き家がたくさんあります。そこで、行政主体の民間組織をつくり、調査や資金繰り、移住者へのPRをどんどん行っていきたいと考えています。

自分がオーナーを務めるどい書店の活動も拡大していきます。具体的には、現在運営しているカフェの営業時間を伸ばしたり、高校生たちとつくったキッチンカーで地元民に飲食を提供、また地域のものを仕入れてネットショップで販売するといったことも計画しています。

加えて、農業にも力を入れていき、無農薬にこだわった野菜を産直便という形で販売したいなと。あと最近はジビエ解体所となる空き家も借りれたので、獣害対策や美味しくジビエが食べられるようなビジネスもやっていきたいと思います。

──すごいですね!それだけのことをやろうと思うと、かなりのエネルギーやモチベーションが必要になってくると思うのですが。

岡山さん:東京で大学生活を送っている中で、自分はあまり社会に適合できていないということに気づきました。とても生きづらい世の中だな、とずっと感じていました。

そんなときに内子町に訪れ、町の中で見たきれいな景色や暖かく接してくれた人たちと交流する中で、「都会では適合できなかった自分でも、そういった環境や人たちに囲まれて暮らしていたら、何か力になれるかもしれない。高齢者から世代交代のバトンを受け取る存在になりたい。」と強く思えるようになりました。

そこから少しずつ形ができてきて、賛同・協力してくれる人たちも増えてきました。実績や経験、資金はまだまだありませんが、これからも色々な人の力を借りながら、この町を次の世代に少しでも暮らしやすく誇りに思える場所にできるよう自分なりに頑張っていきたいと思っています。

持続できるまちづくりへ

 

──岡山さんの存在や活動がもっと広く知られるようになることで、同じような想いをしている人にも勇気を与えられるのではないかなと思います。最後に、持続できる町をつくっていくために考えていることがもしあれば教えてください。

岡山さん:まちづくりの取り組みとして行われているものでも、持続できずにそのとき限りのもので終わってしまうというケースは多々あります。特に、地域のことを知らない外部の人がやってしまうと一過性のものになってしまうと感じています。

それよりも大事なことは、今いる住民や、地域と関係のある人たちが動くこと。自ら身銭を切って足を運ぶことで、本当の意味で町のことを知れると思っています。

なのでこれからもこの小田という地域に暮らし、住民の皆さんを中心に協力や理解を得ながらまちづくりをしていきたいなと。そういったことを大事にしてこの先も持続できる町ができるよう活動に励んでいきたいと思います。

最後に

岡山さんの活動の核は一貫して「誰かのためになること」。そういった彼の持つ優しさや温かさが、周りにたくさんの人が集まってくる理由の1つなのかなと感じました。小田という地域がこの先どういった変化を遂げていくのか、今後もWEELSは岡山さんの活動に注目していきたいと思います。

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